シャッターの向こう側。
 私って、それだけ仕事が上の空だったのか!?

 ただ言われる通りに写真を撮って。

 デザイナーさんと相談しながら数枚の写真を選んで、加工が必要な時はして……

 入社2年の、ほぼ新人みたいな私だと、自分の意見なんかは大概潰されるし。

 衝突が嫌で、簡単だから人に言われるままに動いて……


 ……ああ。


 本当に私、仕事を〝こなす〟だけになっちゃっている……。


 これじゃ、全然ダメじゃないか。


 そんな事を考えていたら……


 いきなり椅子の足を蹴られて、はっと息を飲む。


「神崎。お前、聞いてなかったな?」


 冷たい視線が、隣から突き刺さった。


 見ると、すでに相手方の担当さんはいなくなっていた。

 手元の書類をテーブルに置いて、微かに頷く。


「すみません。聞いてませんでした」

 素直に言ってみると宇津木さんは少しだけ目を細め、軽く溜め息をついた。

「まぁ……いい。今日のは本来なら営業の仕事だからな」

 そう言って椅子を引くと、私の方に身体を向けながら宇津木さんは首を傾げる。

「これからは、ディレクターとしての話だからちゃんと聞け」

 アートディレクターとしての話?

「先方からは、どの施設を使用てもいいとの話だ。だから、お前は好きなように写真を撮ってこい」

 ……ん?

「ここの施設ならどこでもいい。お前がいいと思うものを撮ってこい」

「はい?」

「後をまとめるのは俺の仕事だ。次に部屋だが……」

「ちょっ……ちょっと待って下さい」

 片手を上げる私に、宇津木さんは眉をしかめた。

「なんだ」

「えーと……つまり、自由にしていいって事ですか?」

「そう言ってる。出費は先方持ちらしい。レストランの使用はさすがに自分持ちだが、遊戯施設などはフリーパスだ。ま、プレオープンだからな、あまり期待するな」

「そうじゃなくて。私の好きに、撮って良いんですか?」

 宇津木さんはイライラした様に、私を睨んだ。

「あれこれ指示がないと動けないフォトグラファーなら、写真館のカメラマンで事足りる」

 言われて、思わず息を止めた。

「俺はアーティストを相方に選んだつもりだが、違うのか?」



 ……違わない。
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