シャッターの向こう側。
 まぁ、彼氏が目の前で他の女と喧嘩してたら不機嫌にもなるか。

 ……つい、いつもの調子だったかな。

 溜め息をつきつつ歩いていると、いつの間にか前の二人の姿を見失っていた。

 別に一緒に帰る事もないよね。

 坂口さんと二人でホームに立つと、そのまま来た電車に乗り、窓際で外の景色を見るとも無しに見る。


 流れていく繁華街のネオン。


 一瞬で通り過ぎる遮断機。

 静まり返った車内に線路を走る音が響く。

「今日は、家まで送るよ」

 坂口さんの言葉に、無言で首を振った。

 坂口さんは、いつも次の駅で降りる。

 うちは、その4つ向こうの駅。

 送らせたら悪い……という気持ちがいつも勝る。


「大丈夫です。駅から近いですから」

 微笑むと、坂口さんも少しだけ微笑み返してくれた。


 電車が次の駅に着き、扉が開いて坂口さんがホームに降りる。


「ねぇ、神崎ちゃん?」


 坂口さんがゆっくり振り返って、笑顔のまま首を傾げた。


「はい?」


「俺達……付き合ってるんだよね?」


 え……っ?


 驚いて瞬きした瞬間に、扉が閉まった。

 ガラス越しに坂口さんが片手を上げる姿が見え、電車が動く。

 真っ直ぐで真剣な表情が、次第に遠ざかり、夜の闇に見えなくなった。



 〝俺達……付き合ってるんだよね?〟



 その言葉を理解した瞬間、妙に胸騒ぎがした。

 何故〝そうですよ〟って、すぐに出てこなかったんだろう?

 〝私達、付き合ってるんですよ〟って。


 だけど、未だに私は付き合っているという実感がない。


 どこか、現実味がなくて……


 妙に遠く離れた出来事の様で。


 何故だろう……?


 考えているうちに、窓に2・3粒の水滴がかかった。


 ……雨?


 見る間にも、ガラスに水滴がぶつかっては風に流されていく。

 その筋を眺め、扉のガラスにおでこをつけた。


 冷たくて、気持ちいい……


 答えなんて出ないまま、ただ、その流れだけを眺めていた。















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