シャッターの向こう側。
「どうした? らしくないじゃないか」

 鉄柵に両腕をかけながら、宇津木さんは私の顔を覗き込んだ。

 らしくないか。

 らしくないんでしょうねぇ。


「何でもないですよ~」

「何でもなきゃ、お前ならはしゃいでるだろうが?」

 おい。

 私はどれだけ子供だ?


 ちらっと睨むと、宇津木さんは鼻で笑った。

「じゃないと、連れ出した甲斐がない」


 は……?


 キョトンとすると宇津木さんは肩をすくめて鉄柵を跨ぎ越え、そのまま柵に寄り掛かった。

「坂口と喧嘩でもしたか」

「……坂口さんが何か?」


 言ってましたか?


「特に。あいつは何も言わない」

 お互いに、ステージの方を見る。

「たぶん喧嘩した訳じゃないです」

 特に喧嘩らしい事なんてしてない。

 ただ、あの日から連絡を取っていないのも確か。

 思えば、私から連絡を取った事がないんだよね。

 坂口さんがいつもうちの部に顔を出してくれていたから。

 だからうちの部に彼が顔を出さなくなると、とんと連絡が途絶えたり。

「なんか……実感がなくて」

「実感?」

「お付き合いしてる実感が」

「なんだそれ」

 私も上手く説明できない。

 何だか同僚の延長と言うか、なんと言うか?

 二人でデートって言っても、仕事帰りに飲みに行ったりするだけ?

 繁忙期ではないから坂口さんはブラブラしてるけど、私がなんか色々と忙しくしてるから、彼は気を使って休みの日は休ませてくれるし。


 何より……まだキスすらしてない。


 そりゃ~、私に恋人らしい人が居たのは学生の頃の話で、坂口さんはあの当時の相手と比べると年上だし?

 やりたい盛りの年齢でもないんだろう。


「うーん」

 首を捻ると、宇津木さんは肩を竦めて柵から身を離した。

「ま。どっちにせよ、お前がそんなんじゃ仕事にならん。スタッフには言って来たから今日は帰る」


 ううぅ……

 申し訳ありません。
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