シャッターの向こう側。
 ひょいっと鉄柵から下り、荷物を抱え直した私に宇津木さんは苦笑する。

「あのな、神崎」

 久しぶりに名前を呼ばれて目を丸くした。

 改まって何?

「このミュージックフェスの企画、確かにうちからの参加は多い」

 はぁ……

「だがな、名前はちゃんと載るし、チャンスだと思え」

 へ?

「チャンスですか?」

「そう。足掛かりなんて結構転がっているもんだから。それを逃すな」


 足掛かり?


「ところで、お前は電車?」

 話題が急に変わりましたね!?

「……電車ですよ~」

 宇津木さんが歩きだしたのでそれについて行きながら、私は首を傾げる。


 チャンス……


 チャンスねぇ?


「上り? 下り?」

「え? ああ、ここからだと上りです」

「そうか」

 それっきり、お互い無言になりながら特設会場を後にする。

 まわりは海も近い、ただっ広い空間。

 潮の混じった風がじっとりと纏わり付いてきた。

 民家も街灯も少ない中、宇津木さんと二人で黙って歩く。

 ここに来る時は会社の人の車に乗って来たし、まだ明るかったからそんなに気にも留めなかったけど、けっこう寂しい所なんだな。


「人っ子一人いませんねぇ」

「そりゃそうだろ。ワザワザそういうとこ選んでるんだし」

 事もなげな言葉に、宇津木さんを見上げる。

 いつも通り、薄手のジャケットとジーパンと言う姿。

 正直、見ていて暑苦しい。

「宇津木さんはいつもジャケット着てるんですね」

「ポケットが増えて楽」

「バック持てばいいじゃないですか」

「手に何か持つの苦手」


 ……さようですか。


「でも、何でワザワザ寂しい所に会場を作るんですか?」

 首を傾げると、薄暗い中で小さな溜め息が聞こえた。

「会場を借りたら金かかるだろ」

「え? でも、それは普通ですよね?」

「このフェスタはKミュージックの半分ボランティアみたいなもんで、Kミュージック所属のミュージシャンも多数でるが、一般参加者も多い」

「はぁ」

「まぁ、つまりは一般から新しいミュージシャンを捜そうって魂胆でもあるわけだ」

 へぇ?
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