シャッターの向こう側。
 どんなに芽が出なくても、賞を掠りもしなくても……

 写真家はアーティストの端くれだ。

 仕事は仕事と考えていたけど……


 私が撮る写真は、私の作品だ。


 これは、紛れも無く挑戦状。


 キッと宇津木さんを睨み付けて、首を振る。


 ……変えよう。


 だらだら仕事をするのは辞めよう。


「出来ます」

 私の返事に、宇津木さんは普段通り淡々と頷いた。

「じゃ、話を進めるが……」

 宇津木さんの言葉を聞きながら、必要な事をメモに取る。

 部屋は一応、先方の好意に甘える形で最上階……とは行かなくても、いい部屋が割り当てられたらしい。

 それから近くに写真館があって、そこの機材を貸してくれるらしいとのことで、写真が出来たら宇津木さんに見せろ……と。


「毎日ですかぁ?」

「毎日写真館に行く気力があるわけか」

 場所を教えてもらって首を振る。

 写真館の場所は、近くと言っても街中の外れ。

 車を使っても片道20分はかかる。

 とてもじゃないけど、毎日なんて通っていたら、正直身とおサイフが持たないと思う。

 いろんな事を計算して、出来るだけにしよう。

 頷いていたら、宇津木さんの涼しげな視線とぶつかった。


「……何か言いたそうですね」

「ああ……」

 宇津木さんは立ち上がりながら頷いた。

「やけに素直で気味が悪い」

「っ……!?」


 奴が立ってさえいなければ、首を締めていたのかもしれない。


 ……とにかく、そんな感じで仕事は始まった。

 早速、割り当てられた部屋に入るなり、ちょっと感動した。

 10階の1093号室。

 高さがあるから景色は良いだろうと思っていたけど、ホントにいい。

 ドアを開けた瞬間大きな窓が視界に入る。

 見下ろすとテーマパークが一望できた。

 よく見ると遊園地を中心に、4つの区画に分かれてるみたい。

 それから、窓を向いて配置された二人掛けのソファーと、その前にはお洒落な猫足のローテーブル。

 テレビは窓の端、壁際にあって、振り返ると小さなバーカウンターと目立たないように備え付けの冷蔵庫がある。

 普通じゃ、こんな高い部屋は泊まれないよね……
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