シャッターの向こう側。
「アマチュアが半数、プロミュージシャンも出るがチケット代は1500円くらい。なら会場費用を抑えた方がいいだろ?」

「ワザワザ作って?」

 そっちの方がコスト高くつくと思うんだけどな。

「ステージって言っても要は板を組み合わせた簡単な箱の組み合わせだし、野外に椅子を置く訳でもない。総合的に考えりゃ都内で野外ステージ借りるより安い」

「そうなんですか」

「それに、これだけ民家の少ない所だと防音に余り費やさなくてすむし、何より当日の交通整備が楽」

 ……色々考えられてる訳なんですね。

「しかしお前って、自分に興味のあるところ以外ホントに無頓着だな」

 イキナリ言われてコケそうになった。

「は、はぁ?」

「少し頭を使えば判るだろうが。お前はまた書類を見てないのか」

 よくは見えないけど、私を見下ろした宇津木さんの視線は鋭そうだ。

 うん、きっと鋭い。

 でも、今回はちゃんと見たもんね!


「ちゃんと読みましたよ!」


 踏ん反り返ったら、頬っぺたを思いきりつままれた。

「いひゃい! いひゃいれすっれ、うるきしゃん!」

「当たり前だ! お前も少しは頭を使え! 書類を見ていてそれは、何も考えてませんって言ってるもんだろが」

「かんぎゃえてないわけりゃありまひぇんって!」

「何言ってるか解らん!」

「じゃあ離せ!」

 バシッと、頬っぺたをつかんでる宇津木さんの手を払いのけ、痛む頬を押さえて彼を睨みつける。


 この大魔神めっ!!


 最近は余り叩いて来ないと油断していたら、油断大敵・火事・親父だ!

 だいたい宇津木さんって親父くさいからそれで十分かもしれない。

 うんうん、決定!

 標語は油断大敵・火事・宇津木!


 ……だから、私にコピーライターの才能はないなと痛感。

 それにしたって、26にもなって年齢相応の扱いを受けないって、何?

 そりゃ~私は固執するたちじゃないし、日々何となく生きてますよ。

 だからって何も考えてない訳じゃないし、悩みなさそう……なんて事もよく言われるけどね!

 唇をとがらせながら、ズカズカと歩いていたら、また小さく溜め息が聞こえた。
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