シャッターの向こう側。

先輩……もしくは理性

******




「神崎さぁん。今、暇?」

 先輩の一人に声をかけられ、ひょいと顔を上げた。

「暇な様に見えますか? 私」

「あははは。あんまり見えないわ」

 綺麗な巻き髪を緩く編んで、着ているものはピシッとした黒のパンツに短めの黒のボレロ。

 野暮ったく見えないのは、ボン・キュッ・ボンのスタイルだから?

 それでもって美人さんとは、まったく羨ましい。

「……そんな時にアレだけど、広告写真が欲しいのよ」

 うわっと、依頼ですかね。

「Iデパートの特産市の広告なんだけど、うちのフォトグラファー出払っていてさぁ」

 見てみると確かに皆いなかったり。

「忙しいんですかね」

「うん。たぶんね」

 先輩は軽く言って、隣でパソコンのモニターを眺めている宇津木さんの頭にのしかかった。

「うわっ……」

「こ~んな無愛想な奴といつも組んでないで、たまには新鮮な風を感じましょ」

 新鮮な風……って。

 それより、押し潰されている宇津木さんと婉然と微笑む先輩の対比にウケた。

「わぁ~。宇津木さんがしてやられてる」

「加納! お前よけろ! ピヨは何を喜んでる!」

「喜んでる訳じゃないです。愉悦に浸っているんです」

「お前……後で覚えてろよ?」

「嫌です」

 加納先輩の下からの怨みがましい視線を払いのけ、ファイルを片付けながら首を傾げる。

「撮影はRスタジオですか?」

「話が早いわ、神崎ちゃん!」

 加納先輩は両手を打ち合わせ、しなやかに宇津木さんの上からよけた。

「今日の13時に予約してあるから、お昼ついでにもう出ちゃいましょ」

「ぇえっ!? 今日なんですか?」

 それって、ギリギリすぎないか?

「うん。だから助かったぁ。さぁ、行きましょ、サクサク行きましょ」

「……また手配忘れてたんだろ」

 低い声の厭味に、加納先輩は宇津木さんをパカンと叩いた。

「うっさい。うちのフォトグラファーを一人独占してる奴が何を言う」


 ……宇津木さんを叩く女性・Part2。

 もしかして、宇津木さんって美人さんに弱いんだろうか?


 けっこう強引に腕を引かれ慌ててバックを掴んだままエレベーターに乗り、加納先輩に薄いファイルを渡された。
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