シャッターの向こう側。
「えっとね。悪いんだけど今回フードコーディネーターの手配も忘れてて」

 上目使いの加納先輩に、目を丸くしながらファイルを広げる。

 撮るのは地方の珍味やら魚介類スィーツなどが13点と、それから民芸品ばかりが9点。

 これくらいの広告になると普通はコーディネーター使うのに、今回はいないの?

「私、忘れっぽいのが有名で」

 両手を合わせている加納先輩を、ちらっと眺める。

 それ、有名でも自分で言わないでしょ。

「普段なら他の人に頼むんだけど、たまたま出張に行ってるみたいで」

 そうなんですか。

「神崎ちゃん宇津木と組んで、前にリゾートホテルの仕事上げてたじゃない?」

「T市のですか?」

「うんうん。宇津木が神崎ちゃんには好き勝手撮らせてたって言ってたの思い出してね。なら神崎ちゃん、コーディネーター無しでも撮れるかしらって……」


 フードコーディネーターか……

 確かにいてくれた方が、楽でいいんだけども……

「クチバシ挟まれなくていいかも」

 たまに〝こっち側から撮って下さい〟なんて指示してくるコーディネーターもいるんだよね。

 まぁ、見栄えとかも考えての事だろうけれど、あれにはウンザリすると言うか。

 ……と言うか、たまに怒髪点越えさせてくれると言うか。

「やってみないと解らないですが、やってみましょうって感じでいいですか?」

「恩に着る! ランチ奢っちゃう!」

「それは助かります~。今月金欠で~」

 出張の仮払い申請、実は後回しにしていてお財布の中身が寂しい限りなんだよね。

 だから、お弁当持参で……

「あっ!!」

 と、声をあげたら、加納先輩が驚いて睫毛を瞬かせた。

「お弁当。デスクに忘れてました」

「……ランチ食べに行くんだから、いいんじゃないの?」

「いやいや、この陽気じゃ痛んじゃうし」

 どうしようか?

「なら、宇津木の奴にでも冷蔵庫にしまっておいてもらえば?」

「あ。そうですね」

 エレベーターを降りると、携帯をだして宇津木さんに電話した。
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