シャッターの向こう側。
 数回のコール。

 途切れたので息を吸う。

「あ……」

『何か用か?』

 ……名乗らせろよ。

「……あのですね、お弁当が」

『弁当?』

「私の机の一番下の引き出しに入っているんですが」

 ガタゴトと音がして、

『この白の花柄? 随分と奇天烈な』

 奇天烈で悪かったですね。

『くれんの?』

 はぁあ??

「……欲しいですか」

『加納と食いに行くんだろ?』

 まぁ、そうですけど。

『買いに行く手間が省ける。んじゃな』

 と、携帯が切られた。


 ……おーい。

 誰も食ってくれとは一言も言ってないんですけど~?

「神崎ちゃん。面白い顔になってるわ」

 加納先輩に言われて、ポリポリと頭をかく。

「宇津木さんて、よく解らないです」

「そうねぇ。あの天才肌を解る人なんて極小数じゃないかしらね?」

 天才肌ですか。

「知ってた? あいつ、普通の高校を卒業して、最初は理系の大学に行ってたのよ」

 へ?

 歩きながら呟く先輩に、目を丸くした。

「マジですか?」

「それでアートディレクターやってるんだから、ムカつくわよね」


 ムカつくと言うか、凄いよね?


「詳しいんですね。加納先輩」

「私、一応は同期だから。よくあいつらと飲みにも行ってたしねぇ」

 先輩はクスクスと笑いながら、楽しそうに私を見た。

「そういえば、神崎ちゃんて坂口と付き合っているのよね?」

「はぁ……」

「全然、そんな風には見えないわ」


 言われてドキリとした。


 端から見ても、そういう風には見えなかったんだろうか?

「付き合い始めたのは、出張の最中なんでしょう?」

「あ。はい。まぁ……」

「私、神崎ちゃんが誰かとくっついたって話を聞いて、てっきり宇津木とくっついたんだと思ってたわ」

「ぇええ!?」

 ぎょっとしたら、加納先輩はコロコロと楽しそうに笑った。

「だって貴女。例え坂口が一緒にいても、宇津木と楽しそうにしてるんだもん」

「……そんな事はないと思うんですが」

「そう?」
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