シャッターの向こう側。

フェスティバル……もしくは祭りの後

******





 大音量だぜイェーイ☆

 耳は痛いし、頭は痛いし、クラクラクラクラ~。


「あ! ごめん神崎ちゃん!」


 踏まれて半泣きの私に、謝る坂口さんに、笑いこける加納さん。


 今は足も痛いよ、ルルル~。


「ね~! アンプの側から離れた方がいいと思うよ~!!」

 坂口さんの大きな声は聞こえるけど、離れるつもりは毛頭ありません。

 Kミュージック主催、ロックフェスティバル会場。

 主催者側のスタッフをいいことに、うちの会社の人が多数潜り込んで来ていたり。

 坂口さんと、加納先輩は明らかに高みの見物組。

 何だか坂口さんは先日の音信不通もなんのその、フェスティバルが始まる前にやってきて、イキナリ抱きしめられるというハプニングもあった。


「神崎ちゃん!」

「い~や~で~す~!!」


 叫んでカメラを構える。

 ここのアングルが一番いいんだ。

 馬鹿でかいアンプの側で暗いし、ステージも客席もどっちも撮れる。

 今のバンドはアマチュアらしいけど、客席の盛り上がりからして地元ではかなりの人気があると見た!

 ……後で耳がおかしくなるかも知れないけどね。


 でも集中すると音が遠退く。

 ファインダーから見える世界は、薄暗い夕方の輝き。

 太陽が海に沈む直前の、霞みがかかるような光の世界。

 客席は音に合わせて腕を振り上げる人、飛び上がる人。

 きらびやかなステージでは軽やかで力強いドラムスティック……そして飛び散る汗。

 振り上げられるギターは粉々になったけど、そんなのお構いなしに歌い続けるヴォーカル。


 この熱気は、近くにいなくちゃもったいない!


 一歩前進しかけて、坂口さんの腕に引き止められた。


「危ないって!! 前、前!」

 足元を見て、目を丸くした。

 後数センチで、アンプを置いてある台から客席にダイブするところだった。


「ありがとうございます~!!」


 このレンズじゃ駄目だ。

 足元のカメラバックから、新しいレンズを取り出して変える。
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