シャッターの向こう側。
 レンズを変えると、視野が広くなる。

 ファインダーを覗いたまま、客席を見渡してある一点で手を止めた。


 ……熱狂的なファンかも知れない。

 女の子が一人、両手を握り合わせてステージを見守っている。

 その瞳は切実で、一途で……


 思った瞬間にシャッターを切っていた。


「……ふふっ」


 思わず笑みが零れる。


 今のはいい絵になりそう。


 思った瞬間、バックを片手に踵を返していた。


「え……神崎ちゃん!?」


「ちょっと行ってきます」


 呟きは大音量の音楽に掻き消されただろうけど、構わず走ると宇津木さんが遠くに見えた。


 視線が合う。


 宇津木さんは肩を竦め、ふっと笑う。


 何か言っているみたいだけど聞こえない。



 でも解った。

 〝迷惑かけすぎるな〟

 言いそうな事だ。


 アッカンベーをしてすれ違う。


 楽しい。


 とても……


 ううん。

 ものすごい楽しい!


 楽しすぎて思わず笑うと、すれ違ったスタッフの人にぎょっとされたり、引かれたり。


 ……不気味だったかも知れない。


 けど、そんなの気にしない!


 思う存分楽しんで、思いきり走りまわって、いろんなアングル、いろんな場所から撮り続け……


 月がステージの真上に見えた時、気がつけばお祭りは終わっていた。
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