シャッターの向こう側。
「あ~……楽しかった!」

 軽くレンズを拭きながらニコニコと呟くと、坂口さんは苦笑し、宇津木さんは頭を抱えた。

「おっ前なぁ……誰がステージ脇まで行けって言ったよ?」

「…………」


 どなた様も言ってませんとも。

 まぁ危うく華々しい登場をするところを、すんでの所で宇津木さんに引き止められましたが。

「たぶん、いい絵が撮れましたから、それで許して下さい」

 にこやかに両手を合わせると、宇津木さんは溜め息をついて坂口さんを睨んだ。

「なんの為にお前を呼んだんだか」

「いやぁ……さすがにああも縦横無人に走り回られるとは、俺も思ってなくて」

 人をなんだと思ってる台詞ですか。

「だから言ってあっただろうが、こいつにカメラ持たすと、危ない奴になるって」

 それもどういう意味ですか。

「なんにせよ、止められたんだから、結果は良しと言うことでいいじゃないの」

 明るく言った加納先輩に、宇津木さんが振り返った。

「……主催に言い訳してこい」

「頑張って! ガッツよディレクター」

 ガッツポーズの先輩に、宇津木さんは頭を振り振り主催者スタッフの集まるブースへと歩いて行った。


「……さすがに悪いことしましたかね?」

 頭をポリポリかくと、坂口さんがポンポン頭を叩いてくれた。

「いいよ。好きに撮ってこいって言われてるんでしょ? 後は責任者の仕事」

「そうそう。相変わらずクジ運がいいんだか悪いんだか、この仕事を請け負っちゃった人の責任」

 加納先輩も難しい顔で頷く。

「責任者……ですか?」

 確か、この仕事のプロデュースは、第一企画課の吉住さんじゃ?

 書類にもそうあったような?

 ポカンとした二人に構わずカメラを仕舞い始める。

「神崎ちゃん。この仕事の総責任者を知らないで仕事してたの?」

「吉住さんですよね?」

「違うよ! 吉住さんが入院したから、この間会議で……」


 ……もしかして?


「宇津木さんですか?」


 二人とも脱力した。
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