シャッターの向こう側。
「もしくは会社と一緒で、パソコンにいったん取り込んじゃうとか?」

「あは。いつかは専用のプリンターも欲しいんですけどね」

 給料がヒラヒラの身としては、あまり贅沢は出来ないし。

 ……ま。

 そこらへんはたいした問題じゃない。

 カラーフィルム自体は仕事でしか使わないし、基本は白黒だから。


「まぁ坂口君。これから会社に行ってプリントしてこいって訳に行かないんだから、今日はご飯でも食べて帰りましょうよ」


 加納先輩の言葉に、私は大きく頷いた。

 正直、飢えてます。

 この広い会場を走り回ってたんだから、そもそも当たり前なんだけど、お腹が空いて空いて。


「と、すると、宇津木君を置いて行ったら後で怨まれるから、待ちましょうね」


 あ。

 と、スタッフ・ブースにいるはずの宇津木さんを振り返った。


「そうですね。後で怨まれて大変なのは私ですから」

「神崎ちゃんは、すでに別の意味で怨まれていそうだけどね」

 や……

 それは勘弁して?


 加納先輩の言葉に首を竦める。

 お互いに渇いた笑いを見せ、それから吹き出した。

「じゃ、俺はその辺をブラブラしてこようかな……」

 と、坂口さんは私を見る。

「神崎ちゃんも来ない?」

「あ。はい」

 おいでおいでされたのでついて行った。





 会場はすでに撤去作業中。

 設置されていた音響機材はすでに運び出され、大きなライトを頼りにスタッフさんが右往左往している。


 つわものどもが夢のあと……

 そんな表現がピッタリかもしれない。

 さっきまでアレほど盛り上がった音や熱気はすでに無く、閑散とした雰囲気の中でステージだけが煌々と明るい。


 会場のゴミ拾いをする人。

 組み立てた鉄筋ポールを支えている人、それを外している人。

 コードを手に巻き上げながら、何か指示を出している人。

 段ボールを持ち、大きな声を張り上げながら走る人。


「明日には跡形もないんでしょうね」

 ぼんやりと呟くと、坂口さんは振り返った。

「寂しい?」

「……ちょっとだけ」
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