シャッターの向こう側。
 誰だってそうだと思う。

 楽しい時間が終わってしまうのは寂しい。

 さっきまで何百人という観客がこの会場を埋め尽くし、その何百人という観客と熱い時間を共有した。


 その空間が、無くなっていく。

 気にならなかった潮騒が遠くに聞こえ、夜の闇が際立つ。

 立ち止まると、坂口さんも立ち止まって振り返った。


「神崎ちゃん?」

「すみません。ちょっと待って下さい」


 カメラをバックから取り出して構えると海の音が遠退いた。


 夢の跡形。


 でも、これが終わりじゃない。


 ここからスタートを切った人もいるだろうし、今、まさにスタートラインに立った人もいるだろう。


 物語の終焉。


 そして、物語の始まり。

 始まりがあって、終わりが来て……

 そしてまた始まりがやってくる。


 これは、その道程の1コマ。

 始まりの静けさ。


 だからこそ、寂しい空間。


 シャッターを切ると、顔を上げてニッコリと微笑んだ。


「すみません」

 カメラを仕舞いながら坂口さんに追い付く。

「ううん。いいよ」

 ふわりと微笑みが返ってきて、何故か急に照れ臭くなった。

「えと……すみません」

「だから、いいよ。神崎ちゃんは、本当に根っからのカメラマンなんだね」

「そうですか?」

「最初にカメラを持ったのはいくつくらいの時なの?」


 解らない。

 でも、気がつけばお祖父ちゃんの後を追っかけて。

 気がつけば、カメラを手にしていたかも知れない。


「たぶん……幼稚園に上がる前ですから、3・4歳だったんじゃないでしょうか?」

「そんな前から?」

「あ。もちろん一眼レフじゃなかったですよ? 素人にも簡単、いわゆるバカチョンカメラと言う奴で」

 へらっと笑うと、坂口さんも面白そうに笑っている。

「きっかけはなんだったの?」

「ん~……お祖父ちゃんの家に猫がおりまして」

 思い出しながらクスクス笑う。
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