シャッターの向こう側。
「お待たせしましたぁ~」

 ドアを開けると、冴子さんに襟首を掴まれた坂口さん。


「…………」


 さ、冴子さんて……

 廊下で遠くを眺めているらしい宇津木さんも見える。

「あらあら、早かったわね~。雪ちゃん」

 ぱっと手を離した冴子さんが、にこやかに振り返った。


 その笑顔が恐いんですけど。


「……お待たせしました」

「あのね~。今日はね、海辺の方にキャンプに行くんですって」

 冴子さんはするりと私の腕に腕を絡ませてきて、持っていた荷物を取り上げると、それを坂口さんに突き付ける。

「ホラ! 荷物持つ!」

 乾いた笑いをもらしながら、私の荷物を持ってくれた。

「ホラ! 隆平も行くわよ!」

「大変なのに魅入られたな……」

 ポソッと呟いた言葉に、冴子さんは素早く宇津木さんの鳩尾に肘を入れる。

「私はこんな可愛い妹が欲しかったわ!」


 なんとなく……


 私はこんなお姉さんはいらないかも……


 だけど冴子さんって、かなり遠慮容赦なく宇津木さんに攻撃してるよね。

 尊敬しちゃうと言うか、呆れてしまうと言うか……


 やっぱり尊敬?


「私にもその技を伝授して下さい」

 へ? という感じで振り返った坂口さんと冴子さん。

 それから不機嫌オーラを発する宇津木さん。

「……いえ。何でもないっす」


 何故、見破るかな~。


「100年早い」


 ブツブツ言われてる様だけど、冴子さんが睨みを効かせて叩かれはしなかった。

 そんな感じで坂口さんの車に乗り、いざキャンプ場を目指す。




 運転手はもちろん坂口さん。

 助手席には私。

 後部座席には宇津木さんと冴子さん。


 普通に何故か会話がない中……


「ねぇねぇ。普通の恋人同士って、どんな会話をするのぅ?」

 目を輝かせた冴子さんが、坂口さんの座席の頭をガンガン叩いた。


「普通……って、普通?」

「全然参考にならないっ!!」


 うん。

 なんか宇津木さんと冴子さんて、どう転んでも〝普通〟の恋人同士に見えないもんね。
< 129 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop