シャッターの向こう側。
 目の前に……


 鼻先すれすれに……


 逆さまに見える宇津木さんの端正な顔。


「…………」


 顔が近い……っ!!


 近いんですよ~!!!


「騒ぐな、慌てるな、まずは息をしろ」

 言われて初めて、息を止めていた事に気がついた。


 息、息、酸素、酸素。


「だいたいな、素人に任せるお前が悪い」

 そう言って、宇津木さんは顔を上げる。

 視線を動かすと、坂口さんが心配そうな顔で私を見ていた。


 私は無事です。

 大丈夫ですよ~。

 ヒラヒラ手を振ると、冴子さんと宇津木さんからデコピンをお見舞いされた。

 正直、とても痛いですがっ!!


「お前は馬鹿だ」

 ぅおう。

 言い切られた。


「雪ちゃんて、可愛い~」

 じゃ、何でデコピンですか?


 考えは違っても、この二人は行動が一緒なのか。

 涙目になりながら坂口さんに起こしてもらった。


「ごめん。神崎ちゃん」

「あ。いえいえ。坂口さんが謝る事じゃないと思います。私が悪いんですから」

「そうだな」

 早くもタープに取り掛かっている宇津木さんを睨む。

 いちいちカンに障る男だなっ!!

「邪魔だから、おとなしくあっちに行ってろ」

「…………」

 メラメラと燃え盛るバーベキューグリルを眺め、頭をかく。

 って、言われてもな。


 邪魔になったのは確かだし、メラメラグリルの塗装は剥げてるし……


 うーん。


「いいわよ男どもに任せちゃいましょ」

 冴子さんがにこやかに言って、私の手をつかんで歩きだした。

「ついでに私を記念に撮ってもいいわよ」

 お色気ポーズの冴子さんに笑う。

「私、普段は人を撮らないんです。特にポーズをつけてる人は」

「あ。そうなの?」

 わざとガッカリして見せる冴子さんに微笑んだ。

 ポーズをして、緊張しない人はいない。

 ……広告なら、それでいいかも知れないけど。


 まぁ、せっかくだし。

 パタパタとバンガローに戻り、荷物の中から祖父ちゃんのカメラを持ち出した。
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