シャッターの向こう側。
「あ。神崎ちゃん、遠出?」

 坂口さんがメラメラがおさまって来たグリルに炭を入れながら微笑む。

「せっかくですし、自由にさせてもらっちゃいますね。後で隠し撮りするかも……ですけど」

「あはっ……隠し撮りは勘弁してよ」

 そんな事を言われてもするけど。

 冴子さんとしばらく続く芝生を歩き、芝生から砂浜になっていく道を眺めていた。

「雪ちゃんて、切り替えが早いわよね?」

 そんな事を言う冴子さんは遠慮がないですよね?


 ちらっと冴子さんを見ると、妙に楽しそうに笑っていた。

「さすが無頓着フォトグラファー?」

 うーん。

「間違っても褒めてないですよね?」

「あら。褒めてるのよ? あの神経質な隆平の隣の席にいるんでしょう? 余程の精神の持ち主じゃないと、勤まらないし」

「前向きに考える事にします」

 暗に図太いと言われてる様な気がしないでもないけど。

 逆を返せば、スッキリとした性格ということで手を打っておこう。

 それから前方を見て立ち止まった。



 目の前に広がるのは誰もいない砂浜。

 波間に太陽が反射して、凪いでいる。

 率直な感想なんだけど……。


「シーズンなのに、何故、こんなにも人がいないんでしょうか」

「ああ。だってここは会長の私有地」

 ……会長?

 会長って?

「……会長?」

「ええと。隆平のおじいちゃん?」

「ああ、その会長!」


 って……


「ぇえ!?」

 冴子さんは辺りを見て眉を上げた。

「ここらへんはほとんど誰かの私有地ね。でも、この暑い中キャンプしに来る人は少ないんじゃないかしら。いてもクルーザー乗ってるんじゃない?」

 ……うちの会社の会長って、そんなにセレブなんだ?

 まぁ、そりゃ一般社員に比べたら、お給料なんて雲泥の差があると思うけど。


 セレブって、なんか避暑地の別荘しか思い浮かばないや。

 もしくは海外旅行~?

 でもさ……
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