シャッターの向こう側。
「宇津木さんって、全然セレブに見えませんね」

 そりゃ、たま~に良いジャケット着てるな~と思った事はある。

 だけど普段はジーパンかチノパンで、シャツがシルクで粋に着こなしてるとか、そういう事もないしね。

 それに、セレブは庶民とはあまり関わりにならないんじゃ……

 見てると……確かに独特だけど、セレブ感漂う高慢はない気がする。


 いや、偉そうと言えば偉そうだけど。

 ムカつくくらいに偉そうだけど、それは実力の上で言っている訳で……

「ああ。それはそうよ。親は普通のサラリーマンだし?」

「ええ?」

「娘……つまり母親だけど、嫁いだのは普通のサラリーマンの家庭だし」

 あ~。

 そういうことか。

「それともなぁ~に? 隆平は会長の孫をいいことに、好き勝手やってるわけ?」

 冴子さんの怒ったような顔に、慌てて首を振った。

「まさか。そんなんだったら、私は近づきたくもないですよ」

 キョトンとする冴子さんに、ちょっとだけ苦笑する。

「だって、家族の誰かが会社の偉い人だとかで偉そうにしてるって……変じゃないですか。上手く言えないけど」

 ん~……なんか難しいな。

 海を眺めながら首を傾げ、風に流される髪を押さえる。

「確かに宇津木さんって会社で偉そうにしてますけど、会長の孫だからって偉そうにしてる訳じゃないと思うんです」

「そう?」

「単に性格なんじゃないですか? アート面から見ると、言うだけの事はちゃんとやってる訳だし」

 見ると、冴子さんは不思議そうな顔をして私を眺めていた。

「……隆平のアート面?」

「綺麗な感覚を持ってますよね。なんだっけなぁ……去年か一昨年、地球環境をPRするポスターのコンペで入賞したのがあるじゃないですか」

 青と白のポスターは、それはそれは綺麗だった。

 〝地球〟や〝ゴミ〟なんかをフォトで組合せてるポスターが多かった。

 その中で青いだけの海、そして霞がかった雲の様な白。

 月から見た地球?


 ……と、普通に思ってしまったのが不覚だった。

 悔しい……

 いやいや、とにかく綺麗だった。

 ……大陸のない地球だとか。

 温暖化で大地が水没したのか? と言う論争もあった。

 そんな中でも、宇津木さんは黙っている。

 宇津木さんはあまり多くを語ることはない。
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