シャッターの向こう側。
 目を開いて振り返る。


「眠れないのか?」


 見上げると、後ろ手にドアに手をかけている宇津木さんがいた。


 てか、ここで話していたら、中の人が起きちゃうでしょうが。


 黙って眺めていたら、宇津木さんは何かに気づいたように後ろ手にドアを閉める。

「宇津木さんも眠れないんですか?」

「……まぁ、そんな感じだ」

 宇津木さんはそう言って、私の背後に立った。

「明日はいろいろと見て回るって言ってたから、寝ておかないと大変だと思うが」

 張り切り冴子さんが、ここら辺の観光名所を全て回りたい~!!

 って言ってましたもんね。


 でもねぇ……寝れないんだもん、しょうがないじゃないの。


 私を黙って見下ろしていた宇津木さんが、ふっと視線を上げて肩を竦める。


「ピヨ。少し散歩にでも出るか?」

「お散歩ですか?」

「ここら辺には流木もよく流れてくるからな」

「流木?」

「とりあえず手伝え」

 宇津木さんは階段下りて、少し離れた所で振り返った。


「怖いのか?」


 ニヤっと笑われてムッとする。

 そりゃ、怖いのか怖くないのかと聞かれれば正直怖い。

 だけど

「怖くなんかないですから!」

「じゃ、早くしろよ」

 宇津木さんはそう言うなり、さくさくと草を踏みしめて歩き始めていた。


 勝手なんだから。


 唇を尖らせてついて行くと、どんどん海沿いに近づいて行っているのが見える。


 夜の海って……真っ暗なんだと思っていた。

 微かな潮騒の流れに見えるのは青っぽい月の輝き。


 空の濃い藍色を映し、月光を反射した煌めき。


 静かに凪いだ波が、遠くの岩場に跳ねて弾ける。


「静かな海ですね~」


 バンガローから遠く離れたことで、普通の声で話し始めると、宇津木さんは鼻で笑って振り返った。

「ここは田舎だからな」

「田舎がお嫌いですか?」

「いや? どっちでもいい」


 ……なんて適当な答えなんだ。


「でも、田舎だと生活大変ですよ~」

「生活が大変?」

 眉を上げる宇津木さんに、にまにま笑って近づいた。
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