シャッターの向こう側。
「ちょっと……宇津木さん。私に何か恨みでもありますか?」

 背後をじろりと振り返ると、青ざめてはいても、いつもの飄々とした表情の宇津木さん。

「恨みなんてない。お前は掴んでおかないと、どこに飛んで行くか解らなかったから」

「仕事に飛んで行くに決まっているでしょうが。私をなんだと思ってらっしゃるんですか」

 宇津木さんは少し考える風に首を傾げ、微かに皮肉げに笑った。

「……子供?」


 この男は!!


 思わず殴りたい衝動に駆られ。


 あ、いや、いかん。

 相手は少なからず弱っているんだからと納得させる。


「……その減らず口は、平気なようですね」

 仕方なく服の裾をひったくると、隣に座って溜め息をついた。

「そんなに乗り物に弱いんなら、ホントに付き合ってくれなくても良かったんですよ」

「……さすがに、12回も乗るとは思わなかった」

「途中で休んでればよかったんじゃ、と言ってるんです。最後まで付き合わなくても」

「一応初日だし。ついて回ったほうが良いかと思ったんだが」

 だからって、別に乗り物まで乗らなくてもいいじゃないか。


 ……それとも、案外付き合いがいい方なのか?

 見てる限り、そんな気がしないけど。


「次はどれに乗るつもりだ?」

 聞かれて、隣をちらっと見る。

「メリーゴーランドに」

 その瞬間の宇津木さんの顔に、思わず目を丸くした。

 なんとも情けなさそうな、困ったような、怒ったような……なんとも複雑な顔。


「……それには乗りたくないな」


 想像して噴き出した。

 そりゃー子供も連れていない、いい年したお兄さんが、メリーゴーランドに乗ってる姿はある意味見ものだろうな!


 それはそれで楽しいかもしれない!


「いやいや、そんなこと言わず。乗りましょうよ?」

「それは遠慮しておく」

「乗った船です、最後までお付き合いくださいよ」

「断固として拒否する」

「宇津木さんも意外に子供ですね」

 その言葉に、宇津木さんは私を睨みつけた。

「これは仕事です。仕事はやりたくない事でも、時にはしなくてはならないんですよ~?」


 ビシッとデコピンをくらった。


 だから、無言で……


「とにかく、俺は急用を思い出した。ここはお前に任すから勝手にしろ」

 そう言うと、さっさと立ち上がって行ってしまった。
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