シャッターの向こう側。
「妙な人ですね」

「お前に言われたくない」

 宇津木さんは空の段ボールを切り取り、それを丁寧に流木の間に差し込む。


 なんて言うかさ。


「宇津木さんて、キャンプ慣れてます?」

 考えて見ればタープもほとんど一人で組み立ててたし、坂口さんは助手って感じで動いていたし……

 テキパキこなす姿は、実は楽しそうだったし。


 ………で。


 何故、無言なの。


「悪いか?」

 唐突に聞こえた声に、ビクッとなった。

 いや、唐突すぎるのよっ!!

 今の妙な間は何よ!?

 何なのよ!?

「たまに坂口に車出してもらって、キャンプしてたよ」

 それからふっと、私の足元にある小さな段ボールを見る。

「ピヨ。その中に蚊取り線香あるから、出して」

「え? あ、はい」


 蚊取り線香……?


「火を点けると、虫が寄ってくるから」


 それは普通に嫌だ。

 ガサゴソと段ボールを漁り始める私を、宇津木さんは不思議そうに眺めた。

「お前でも虫は嫌いなんだ」

「かゆいのが嫌なんです」

「それもそうか」


 見つけた!!


「蚊取り線香です!」

「ああ……じゃ、火を付けとけ」

 組み立てたテーブルに蚊取り線香立てを置いて、宇津木さんを見る。

「紙皿引いとけ、灰が落ちる」

「あ。はい」

 潔癖症は在住。

「あの、ライターありませんか?」

「テーブルの上」

 テーブルの上のライターを見つけて、蚊取り線香に火をつける。

 薄暗い中では黒い渦巻にしか見えない線香の先が赤く灯る頃、宇津木さんはグリルの段ボールに火をつけた。














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