シャッターの向こう側。

炎……もしくは和やかな時間

******





 宇津木さんは段ボールが燃える様を眺めながら、ちらっと私を見る。

「……コーヒーでも飲むか?」

「余計眠れなくなるじゃないですか」

 何を考えてるんだ、この人は。

「あ、そう」

 パチンと軽い音がして、蚊取り線香のお香の香りの他に、なんとも香ばしい匂いが立ち込める。

「冴子を起こせば、他にも何か用意してると思うが」

「あ、いえ。別にいいです」

 手を振ると、宇津木さんは肩を竦めて荷物の中から小さなポットを取り出した。

 それにペットボトルのミネラルウォーターを入れ、簡易コンロに掛けると火をつける。

 グリルを見ると、段ボールの火が流木に移って煙を出していた。

「ちょっと煙たいですね」

「少し水分含んでいたんだろう。すぐに他の木が燃えるから」

 小瓶から何か白い粉をスプーンで取り出し、宇津木さんはポットに入れている。

「何してるんですか?」

「即席ホットミルク」

「牛乳なんてありました?」

「コーヒー用のだ。いいから座ってろ」

 まぁ、いいですけど。

 チェアーに座って、グリルから火の手が上がるのを眺める。

 積み上がった木が燃えて、赤々とした塊になる。


 炎の中でパチンと爆ぜて、細かな火が弾けて消えた。


 なんか、妙だな。


 宇津木さんが優しく見えるのは、何故だ?

 今までにないことだよね?

 奇妙と言うか、なんか怖いというか……

 チェアの横にあるテーブルに、カップを置かれて宇津木さんを見上げた。

「とりあえず飲んでおけ」

「……ありがとうございます」

 人の好意を無視するのもなんだし……

 カップを手にとって一口飲む。

 ちょっと濃厚な甘い温かさが口に広がった。

 ……なんとなく幸せかもしれない。
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