シャッターの向こう側。
 そんなこと言っちゃいけないとは解っている。


 解っているからこそ言えない。


 だから苦しい。

 坂口さんは優しい。


 優しいからこそ言えない。


 言えないのが苦しい。

 嬉しいけれど、嫌じゃないんだけど。

 何かが違うと感じてしまう。


 そんな自分も凄く嫌。


 カップをテーブルに置いて、両手で顔を隠す。


 凄く浅ましい気がする。


 こんなに想ってもらえば、女冥利に尽きるじゃない?

 こんなに想ってもらえれば、幸せじゃない?

 なのに、何故なのかな?

 我が儘なだけ?

 私に時間をちょうだい、なんて言うのは……おこがましいこと?


「宇津木さん」


「なんだ?」


 静かな声に顔を隠したままで俯く。


「私、写真が撮りたいです」


「……撮れよ」


 うん。


 宇津木さんらしい答え。


「私らしく、撮りたいんです」


「それがお前の夢だろ?」


 そう。


 私らしく……

 何かの作品の一部ではなく、私が撮ったもの自体が作品と言われるような写真が……


 だけど


「坂口さんは……私の夢を理解しているんでしょうか?」


 その呟きに、私自身がビックリした。
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