シャッターの向こう側。
『と、言うか、無理矢理でも行く』

 はぁ!?

『店はどこ?』

「な、なななぜ」

『大切な用事があるんだ』


 あ。

 仕事の話かな。

 とりあえず店の場所を伝えて、通話を切った。

 そこに佐和子が難しい顔をしながら帰ってくる。


「……有野さん。何か言ってた?」

「ここに来るって。大切な用事があるらしいよ?」

「そう……」

 頭を押さえ、溜め息をつく佐和子なんて珍しい。

「何。どうかしたの?」

「プロポーズされてるの」

「ふぅ~ん」


 ……ん?


「ぅぇえええ!?」

「声が大きい!!」


 いきなり叩かれて星が飛んだ。


「痛いよ佐和子さん」

「あんたが余計な事をするからでしょ」

 余計なって言われても。

 私のまわりには手を出す人が多いなぁ。

 まぁ、ともかく、なんとなく逃げ回ってるのかな~……なんて思ったけど。


「さすがに私も、言われないと気付かなかったって」

「そうね。あんたは写真以外は鈍感だわ」

「ひどぃい」

「でも、あんたを感覚って言っていたのはあの人だから、丁度いいかもね」

 なんてやっているうちに、噂の有野さんはお店にやって来た。




「んで。加倉井さんが暗い顔なのはいつもだから解るけど、神崎さんまで暗いのは何故なの?」

 座って注文したての烏龍茶を飲むなり、あっけらかんと言い放った有野さん。

 思わずコケそうになりましたがっ!!

「ああ。気にしない方が良いわよ。この人いつも唐突だから」

 烏龍ハイから、何故かコーラに切り替えた佐和子が真面目な顔で呟く。


 そ、そうなの。


「加倉井さんは失礼だな。ちゃんと見てから言ってるよ」

 有野さんはニッコリ微笑んで、佐和子の頭を押さえ付けてから私を見た。

「真面目な話をしてるって聞いたけど、仕事の相談?」

 あ。

 まぁ、そうなるのかな。

「なら、俺でも事足りる? 一応、加倉井さんの友達は大事にしないとね」

 ……うーん。

 佐和子が1番苦手なタイプじゃないか?

 この人。

「……俺の分析はいいから」

 言われてギョッとした。
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