シャッターの向こう側。
「……何だかとっても深刻だね」

 眉を寄せる有野さんの隣で、佐和子が目を丸くしていた。

「それって前からなの?」

 前……どれくらい前からだろう。

「たぶん。いつから……ってのは解らないけど、解らなくなっている様な気がするの」

 それは、気がするだけかも知れないけれど……

「宇津木はなんて? 君の写真についての感想は容赦なく言ってるんじゃない?」

 有野さんは身を乗り出しながら、コトリと烏龍茶のグラスを置いた。

「……や。全部の写真を見せた訳じゃないです。だいたい宇津木さんが担当する仕事以外の写真は見てないかと」

 それに気に入らない写真を持って行ったら、宇津木さんならそれこそ容赦なくボツにすると思う。

 そこは自信あるな。

「ああ」

 有野さんは笑って片手を振った。

「宇津木が一度見ると決めた相手だし、きっと君の写真は全部見てると思うよ?」

「宇津木さんが?」

「うん。それが奴のやり方だから」


 全然、理解できない。

 顔をしかめると、有野さんはニッコリと微笑んで背もたれに寄り掛かり、さりげなく腕を佐和子の椅子に乗せる。

 佐和子は固まっているけど。

 見てると面白い二人だな。

 思いつつビールを飲む。


「あいつはね、だいたい気に入った子を隣に座らせるから。とても解りやすいよね」

「ブハッ……!!」


 な、なんですと!?


「気に入られてなんていませんよ!」

「その意味は?」


 てか、有野さん。

 何故そんなに笑顔で、しかも意味不明な質問飛ばしてくるんですか。

「だって宇津木さん、平気で冷たいこと言うし、叩くし、足踏むし、睨むし」

「……一つ質問していい?」

 佐和子の髪をさりげに指に巻き付けながら、有野さんは首を傾げる。

「そう思うのになのになんで、君は宇津木と仕事を組むの? 普通、嫌いな奴とあまり仕事しないよね?」


 それは……


 何故だろう。
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