シャッターの向こう側。
「後50年くらい経ってから懐かしめ。お前くらいの歳じゃ、まだまだ若造なんだからな」

 まぁ、70過ぎの祖父ちゃんにしてみれば若造だろうねぇ。

「いい人なんだよ~。今、付き合ってる人って」

 祖父ちゃんは箸を置いて、腕を組むとマジマジと私を見た。

「お前の言う人の性格程、当てにならないモノはない」

「それはどういう意味さ!!」

「道に迷ったうえに送ってくれた同僚を、サドの隣人なんて言うくらいだからな」

 だって、普段から宇津木さんてポカポカと叩くし。

「なかなか面白い二人だったぞ、今日の二人は」

「う、うん。確かに面白いと思う」

 SSカップルだし。

「お前の言う面白いとは違うと思うがな」

 んん?

「二人とも、お前の保護者だったな」

「……うーん」

 ……それは、何となく思ってた。

 宇津木さんは前から思ってた事だけど、冴子さんも実は私を子供扱いしてる気がする。

 なんて言えばいいのか……

「雪?」

 祖父ちゃんに呼ばれて、俯いていた顔を上げる。

「ワシは家族だから言っておくがな」

「うん」

「目に見えてる全てが善意で出来てる訳じゃないんだぞ?」

 目に見えてる善意?

「社会人ならなおさら表裏があるからな、笑顔の下で何を考えているか解らない所もあるし」

 似たような事を、加納先輩に言われた気がする。

 ……確か先輩は、表面だけの優しさなんてホントの優しさじゃないって言ったんだ。

 あれは、宇津木さんを指しての事だったけど。



 お蕎麦を食べ終わり、お祖父ちゃんはきちんと駅まで送ってくれた帰り道。

 電車に乗りながら、言われた事をつらつらと考えてみる。

 一つだけ、漠然としていた答えが出た様な気がした。


 私……


 坂口さんに恋をしていない。


 本当に好きになってくれたのが嬉しかったけど、それだけで付き合ってしまっていた。

 確かに、それがきっかけで好きになることもあるけど。


 でも……

 そういう意味では、きっと坂口さんを好きになることはないんじゃないかと思う。
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