シャッターの向こう側。

初秋……もしくはハプニング

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 秋空に赤蜻蛉。

 清々しい空気に、自然な風。

 ああ、いいな。

 このアングル。

「ボ~っとしてるな」


 と、メガホンで殴られて、振り返る。

「叩かなくてもいいじゃないですか」

「……さっきから呼んでるのに、気付かないお前が悪い」

 メガホンを手にしている宇津木さんの後ろに、苦笑している有野さんの顔。

「え。あ……。呼んでましたか」

「何度もな」

 それはそれはすみませんね。

「これからリハーサル入るから、お前が邪魔なんだと。だからこっちに待機」

 襟首を持たれて、ズリズリと引っ張られる。

 だからね、あんた。

「……宇津木さん。私、猫じゃありませんから」

「ああ? そんなの当たり前だろ」

「常日頃、猫扱いされている様な気がしないでもないんですが」

 宇津木さんは掴んでいる手元を見て、それから私の顔を見た。

「お前、ちびだからな」


 にゃにおぅ!?

 いきり立つ前に腕を掴まれ、またズリズリと引っ張られる。

 ……ああ、成る程。

 高低差があるから、腕が掴みずらかったと……


 どっちにしろ失礼だな……っ!!

 あんたが無駄に高いだけじゃないかっ!!

「おっしゃって頂ければ歩けます!!」

「黙ってたらプライベートに走りそうだからな。お前」

 言われてグッと押し黙った。

 今日は『春のウェディング』と銘打った宣伝のコマーシャル撮り。

 コマーシャル業界は、秋に近いのに春なんですね~。

 有野さんと宇津木さんがディレクターをするって事で、テレビ向けのコマーシャルなのに何故か私も引っ張り出された。


「何かいい絵が撮れそうか?」

 野外に機材を持ち込んだテントで、宇津木さんが絵コンテを片手に早くもコーヒーを飲んでいる。

「うーん。テレビ媒体は季節感がないって本当ですね~」

「気分は春じゃなくて、秋モードか」

 だって、蜻蛉が飛んでるし?

「いいか、ピヨ」

「はい?」

 宇津木さんは両手の指で四角を作って差し出す。

 ……それが何か?
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