シャッターの向こう側。
「出来たか?」

 出来ましたとも。

「……見ておいてもらえますか?」

 振り返った宇津木さんが、マジマジと私の顔を覗き込んだ。

「ピヨ。坂口を呼ぶか?」


 は?


「さっきより顔が赤いが」

 あら。

 熱が出てきたかな。

 考えてみれば、目の奥が痛いなぁと思ったのよ。

 しばしばするって言うか……


 って、言うか。


「冗談じゃないです」

 坂口さんに別れ話をしてから、一切連絡を取ってない。

 何故、呼ばねばならない。

 宇津木さんは難しい顔で腕を組んだ。

「人に気を使うのはいいが、お前一人で帰したら、もっと人様の迷惑だ」

 言い切りやがりましたね。

 ……ムカッときたけど。

 ……だるい。

「佐和子にお願いしますから、いいです」

「加倉井がどうかした?」

 低い声に瞬きして、顔を上げた。


「……有野さん。何故、第一の室内に?」

 有野さんがニッコリと背後に立っていた。

「え。荒木さんとミーティングしてたんだけど。かなり前からいたよ?」

「そうなんですか」


 全く気付かなかった。


「何? 風邪?」

 と、有野さん。

「そのようです」

 と、勝手に返事をする宇津木さん。

「あー。いいんですよ。どうにでもなりますから」

 慌てて手を振りかけると、有野さんがポツリと呟いた。

「じゃ、加倉井の仕事取り上げなきゃ」


 はい?


「……有野さん。その仕事と私情を絡めるのどうにかしたらどうですか?」


 宇津木さんの呟きに有野さんはニッコリと笑う。


「誰に迷惑かけてるわけじゃないし。仕事も進むし問題ないだろ?」

 いろんな意味で問題がありそう……

 ぼんやりしていたら有野さんが佐和子を連れてきて、何故か有野さんの車で送ってもらう手はずになった。










 そして……
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