シャッターの向こう側。
「宇津木さんオデコにこれを貼ってください。有野さんは……何もせずにそこに座っていて」

「え? 水をくむくらいはできるよ?」

「コップを割るのが関の山です」

 よく解らない会話を繰り広げている佐和子と有野さんを眺めながら、宇津木さんがひんやりシートをおでこに貼ってくれた。


「いくらなんでも3人でうちに押しかけるのはどうかと思う……」

 ベットに寝かされながら、半眼になって様子を眺めると、佐和子が眉を吊り上げた。


「こうなる前に、あんたはどうして弱音を吐かないのよ!」

「弱音なんて文字は私の辞書にない」

「書き加えておけ」

 宇津木さんが腕を組み、睨んできた。


 おぉう。

 何故、怒られなければならない?

「だいたいお前はいつも無茶なんだ」

「どこがですか」

「誰が徹夜で仕事上げて来いって言ったよ?」

「今回はしてませんよぅ」

「今回はしてなくてもだ……」

 ガシッと頭をつかまれてジタバタする。

「人間の身体は無茶すると、どこかに負担が掛かるものなんだ!」

「イタイ、イタイ~」


 痛いっての!!

 パシンと手を振り払って睨みあった。


「宇津木。どうしてお前は、そこで心配掛けるな……くらいのこと言えないかね?」

 有野さんの言葉に宇津木さんが固まる。

 おや?

 キョトンとすると、宇津木さんは有野さんを振り返っていた。

「何故、俺がこいつの心配をそこまでしないといけないんですか」

「え? 心配してないとでも言う訳?」

「……風邪引いてたら誰だって心配するでしょう」

「まぁ、それが普通だな」

「ちょっとあんたたち。病人の寝室で何を語りあってるのよ」

 体温計を捜しあてた佐和子が、年上の二人をあんたたち呼ばわりして寝室から追い出した。


 さすがだ佐和子。


「はい。体温計」

 渡されて、その手を掴む。

「いつもすまないね……」

「バカやってないで、早く測る」

 少しは乗ってくれ。


 結果。


 熱は39度近くあり、健康な3人組でまたお話合いになった。

「やっぱり病院か?」

 だから嫌だっての。

「いいけど。今からだと救急?」

 え。

 救急車?

「それだけは嫌~」
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