シャッターの向こう側。
「じゃ、俺も帰るな」

 ノートパソコンの入った鞄を肩にかけ、玄関にきた宇津木さんを振り返る。

「あ。はい。ありがとうございました」

「いや。ああいう時は仕方がないだろう、気にするな」

 さっきはブツブツ言っていたくせに。

「でも、有野さんたちと一緒じゃなくて良かったんですか?」

「俺の家はあの二人とは逆だから。電車の方が近いし」


 ふぅん。


「じゃ、駅行きのバス亭まで送ります。わかりにくいと思いますから」

 カーディガンをとろうと戻りかけ、止められた。

「平気。この辺りなら以前に住んでいたから」

 へ?

「あ、そう……なんですか?」

「一昨年くらいまでか。家賃安くて結構長く住んでたけど、近所にコンビニがないから不便だろ」

「最近、バス停の近くに出来ましたよ」

「へぇ? そう」

 他愛のない会話をしながら、なんとなく宇津木さんが靴を履くのを眺める。

「……俺の顔に何かついてるか?」

「え? 不精髭?」

「……それは仕方がないだろ」

 まぁ、男性ですから。

 靴を履き終え、顔を上げた宇津木さんと視線を合わせると、何故かなんとなく無言になる。


 えぇっと……


 何故、そんなに無表情かな?


「……ピヨ」

「は、はい?」

「あまり心配させるな」


 ふぇ?


「頑張るのもいいが、身体を壊していたら意味がない」

「……はい」

 うん。

 確かにその通りだよね。


 解ってはいるんだけど。


「見ているこっちがハラハラする」

 宇津木さんはポンポンと頭を軽く叩き、そのまま部屋を出て行った。


 機械的な動作で鍵を閉める。


 ……何だろう。


 急に周りの静けさが気になる。

 ガランとした部屋を振り返り、溜め息をついた。


 最近の私は、どうかしてるな。


 そう、思いながら………















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