シャッターの向こう側。
 目指していた方向でもなく、ありきたりな日常に、なんか埋没してきてると言うか……

「そういや、神崎」

 声をかけられて、パソコンを見たままの宇津木さんを見た。

「……なんですか」

「お前、明日から出張だって」


 ……はい?


「聞いてませんよ」

 宇津木さんは稀にとんでもない嘘をつくから、全く信用ならない。

 だいたい週始めに出社してみたら、いきなり出張話を聞くなんて有り得ないでしょうが。

「いや。本当の話」

「え?」

 宇津木さんは書類の入ったファイルから、B4サイズの黄色い封筒を取り出す。

「T市のレジャー施設。あれ、うちに発注きてただろ?」

 パサリと封筒を受け取らせられて、思わず視線を落とす。

「プールに温泉に、屋外遊戯施設、なんでも揃えたテーマパークみたいなやつでしたよね?」

 なんでも億の契約結んだとかで、一時期騒いでたけど。

「お前、あそこの写真撮れ」


 ……はぁあ?


 思わず視線を上げると、宇津木さんはパソコン画面を見たまんま。



 怪しい……。


 ものすっごく怪しい。


 第一、私、そんな大きな仕事任された事なんかない。

 これは疑ってかかるべきでしょう!

「じゃ……室長に確認取った後、出張の手続きをします」

 呟きながら、渡された封筒をあけると、そこには10日間の出張申請書。

「…………」

 思わず目が点になったら、初めて宇津木さんは振り返った。

「お前なんぞに任せてたら、申請なんて間に合わないだろ」

 そう言って腕を組み、椅子に寄り掛かりながらニヤリとする。

「ま。俺の足を引っ張るなよ?」

「はぁあ!?」

 素っ頓狂な声を上げると、宇津木さんは片耳を塞ぎながら封筒を指差す。


 ……え。

 これが何?


 改めて見て、申請書が2枚あることに気がついた。



 すなわち、私、神崎 雪の出張申請の他にもう一枚。

 宇津木 隆平の出張申請書が……


 私が絶句したのは、とても普通の反応だと思う。















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