シャッターの向こう側。
 昨日あれだけぶっ叩かれれば、二度とあんな事態には陥りたくない。

 てか、ホント容赦ないよ、この人。

「一応、遊びに来たんじゃないんだから、先方に迷惑だけはかけるなよ」

「当たり前じゃないですか」

「その当たり前の事ができてないから言ってるんだ」

 サラッと言われて、顔をしかめる。

 ……確かに、言われても仕方ないんだけどさ。

「広すぎですよね。ここ」

「それが〝売り〟なんだろ? まぁ、そんな事はこっちには関係ないが」

 そう言いつつ、宇津木さんは立ち上がった。

「シャトルバスなら8時半から出てるから、さっさと食い終わったら行くぞ」

「へ?」


 今日もついてくる気か?


「宇津木さんは仕事しないんですか?」

「お前の写真が上がらないと、俺も坂口も決めかねる。それにイメージは大切だ」


 イメージですか……


 そんな感じで、私たちは朝食を食べ終わると、出かける用意をしてからシャトルバスに乗った。





 南側はもともとあった森林をそのままに、遊歩道だけ整備した……と、説明される。

 なんていうのかな、昔はここら一帯が原生林に近いものだったそうだ。

「南でも西寄りに杉などの針葉樹が多いらしいな」

 宇津木さんはシャトルから降りるなり、そう言って大きな木を見上げる。

「杉って……なんか盆栽を思い出しますよね」

 私ものほほんと呟くと、微かに苦笑された。

「こんなデカイ盆栽があってたまるかよ」

「似たようなものじゃないですか。庭が鉢植えだとしたら、そこに生えてる草木なんて、きれいに刈り込んだりしてるんですから」

「その大雑把な考えはどうにかならないものかな」

 ちらっと呆れ顔で見られて、肩を竦める。


 ……すみませんね、大雑把で。


「だいたい……松ならともかく、何でこの杉で盆栽を連想するのかが解らん」

 まっすぐに背の高い木を眺め、腕を組んだ。


 確かに、この木を見てるとどちらかと言うとクリスマスツリーを思い出しますけどね……


 とりあえず、その問いには多分キリがないから答えないことにして、カメラの準備に入る。

 フィルムケースから新しいフィルムを出し、お祖父ちゃん譲りの一眼レフにセットし、デジカメの方にも記憶媒体のカードを入れる。
< 20 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop