シャッターの向こう側。
「じゃ、今日飲みに行こうよ」


 ……は?


「快気祝い、快気祝い。加倉井と俺と、それから君と……」

「あ、あの。何故、それに参加しなきゃいけないのでしょうか?」

「え? だって君の快気祝いなのに、君がいないのも変だよ~?」


 いや。

 そもそも何故、有野さんに快気祝いをされなきゃいけないのかが解らない。

 たかだか風邪よ?

 入院した訳でもあるまいし。

「単に、加倉井さんと飲みたいだけでしょう……」

 宇津木さんがポソリと呟くと、有野さんは満面の笑みを浮かべて頷いた。

「よく解ったな」

「たまに有野さんは方法も手段も選びませんから」

「うん。本当によく解ってるな」

 ……そんな妙な理解を示さなくても。

「神崎さんは坂口でも呼ぶ?」

 イキナリお鉢が回ってきて、片手を上げた。

「あ。いえ。いいです」

「……………」

 ……あ。

「……いや、坂口さんには風邪の事を言ってないし、心配かけても……」

 有野さんは眉を上げ、軽く腕を組んで私を眺めると、クリッと宇津木さんを見下ろした。

「じゃ、宇津木に決定」

「はぁ!?」

 その素っ頓狂な声と、ビックリした顔に思わず笑ってしまい……

「お前、笑いすぎ」

 叩かれそうになって、有野さんに助けてもらった。





 そんな感じで、不可思議な組み合わせで飲みに来たんだけど……。

 ま~……

「これぞ飲み屋って感じ?」

 コの字型のカウンター席。

 目の前は厨房……と、言うか、山と盛られた山菜のキンピラがまず目について。

 その奥で、捩り鉢巻きに法被のおっちゃんが、注文を直接受けつつ焼鳥やら魚やらあぶっちゃってるよ。

 換気がいいのか、あまり煙たくはない。

 そして、背後の壁には手書きのお品書きに、棚に並んだ一升瓶。


 昭和のニオイがするっ!!


「おー……。なんだか焼酎に焼鳥な気分になりますね~」

「あ。神崎さんはイケる口?」

 有野さんはおしぼりで手を拭きながら、ひょいと視線があった。
< 200 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop