シャッターの向こう側。
「佐和子よりはイケる口ですよ」

 にやっと笑ったら、有野さんもにやっと笑った。

「加倉井は特殊だな」

「あ。本気で酔ったのを見たことがあるんですか?」

「うん。なかなか……」

「いいから! あんた達は早く注文決めなさいよ!」

 佐和子が騒いで、宇津木さんは烏龍茶をすでに注文していた。


 ……すでにすごいバラバラだね。


 とにかく、妙なやり取りを繰り返す佐和子と有野さん。

 何故かいつも以上に無口な宇津木さん。

 そんな宇津木さんに有野さんが無理矢理ビールを飲ませ、かな~りむせる、というハプニングもありながら……




「じゃあね~。神崎さん」

 手を振りながら佐和子をタクシーに押し込み、有野さんはにこやかに去って行く。

「面白いですね~。有野さんて」

 言いながら、お店の前にしゃがんでいる宇津木さんを眺めて首を傾げた。

「生きてますか~?」

 まさかコップ一杯のビールで、酔っ払いましたか~?

「……頭が痛い」

 それは重症ですねぇ。

「店の前じゃ邪魔になりますから。少し離れませんか?」

 のそりと立ち上がった宇津木さんに、手を貸そうとして片手を上げられる。

「……いい」

「いいようには見えませんからね」

「あー……。本当に、有野さんには参る」

 さすがの宇津木さんも、先輩にはかないませんか。

 ニヤリと笑うと、溜め息をつかれた。

「たまに、本当に首を絞めたくなるな。お前は」

「人生を棒に振りたくないんですよね?」

「今はどっちでもいい」

 ……重症過ぎますね。

 とりあえずはのろのろ歩き始め、すでに閉店しているカフェの前にあるベンチを見つけると、そこに宇津木さんを座らせた。

「本当に飲めないんですね~」

「悪かったな」

「誰も悪いとは言ってませんから」

 とりあえずは、お水……。

 や。

 たまにお水を飲むと吐く人もいるよね。

 じゃ、烏龍茶の方がいいかな。

 買ってこようと歩き始めたら、


「うきゅ……っ」


 シャツを捕まれて首が締まった。
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