シャッターの向こう側。
 そんなワケで……

 まぁ、内心はどーゆーワケなんだか解らないけど、宇津木さんが予約を取っていたレンタカーでS市までやって来た。

 宇津木さんのナビに従って、国立公園の駐車場に車を停める。

「ここはまだ緑いっぱいって感じですね~」

 途中渋滞に巻き込まれてイラッとしたけど、久しぶりに車から出て、清々しい空気を吸いながら身体を伸ばす。

 原生林を保護しているらしい公園は、あちこちから木が乱立している感じ。

「じゃないと困る」

 宇津木さんはサングラスをかけ、持ってきた鞄の中から書類入りのクリアファイルを取り出し、それをそのまま差し出してきた。


 受け取りながら、首を傾げる。


「……今回は何を撮ればいいんです?」

「自然な風景」


 漠然とし過ぎ。


「またエライ抽象的なコメントですね」

「まぁな。どう注文つけても、イメージとしての話だから」

 書類を眺めると、来月に行われるらしい【緑を守ろう・花と緑のフェスティバル】と銘打ったイベントの企画書だった。

「……ポスターですかぁ?」

「ポスターとパンフレットだな。企画部と合同でやると、いつも急場の仕事になりがちで困る。トロイから」

「企画に怒られますよ~」

「言わなきゃばれない」

「じゃ、私がバラ……」


 スパン!……と丸めたぢゃらんで叩かれた。


「冗談ですよぅ……」

「何となくお前ならやりかねない」

「酷いっ!」

「まぁ、好きなだけ自然を満喫してくれ。今回も要望は……」

「祖父ちゃんのカメラで、ですね」

 バックから一眼レフを取り出して、にんまり笑う。

 宇津木さんがしてくる注文はそれくらいだから、段々熟知してきたわよ。

「何か他に注文はありますか?」

「好きに撮れ」

「それ注文て言いませんから」

 肩を竦めて歩き出した宇津木さんに、バックを背負い直した。

「待ってくださいよ!」

「時間がないぞ」

「解ってますから!」

 車のドアを閉め、ロックを掛けると慌ててその背中を追った。
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