シャッターの向こう側。
 鬱蒼とした原生林の森は、微かに冷たい空気を孕んでどこかしっとりとしている。

 普段は白く見える太陽光も、ここでは少しだけ緑色に見えるから不思議。

 ……頭の上まで草木で埋め尽くされたような気分。

 何て言うか、ホントに森林浴。

 枯れた葉の匂いと、樹木の独特な匂い。

 濃厚とも言える青々しい葉の匂いと混じり合って、特殊な空間。


 これは、ある意味で神秘的?

 木霊とか出てきそう。

 綺麗……


「アホ面してると、転ぶぞ」

 冷たい視線に口を閉じた。

「足元を注意しろとか、他に言いようはあるじゃないですか」

「そんなやわな言い方だと、聞き流すだろうが」

 そうかも知れない。

「今回は遊歩道から出るなよ? 何があるかなんて解らないから」

「…………」


 自然の風景……

 自然ねぇ……

 確かにココはとても原始的な自然の中。

 でも……

 果たして、遊歩道から見える中に本当の自然があるんだろうか?


「宇津木さん。方向感覚は任せます」

「はぁ!?」

 イキナリ遊歩道を外れてみる。

「え。ちょっ……マジかよ」

「マジですよ」

 ザクザク歩き出したら、宇津木さんは首を振りつつジャケットから何やら紙を取り出した。


「いい。好きにしろって言ったのは俺だ」

 うんうん。

「だから地図を見る」

 はい?

 バサリと地図らしき大きな紙を広げ、真剣な顔をした宇津木さんを、思わず振り返った。


 あのぅ。

 ちょっと面白いんですが。


「俺も頑張るから、お前も頑張れ」


 え。 いやぁ……

「用意がいいですね」

「任せろ」

 何を……?

「コラ。集中しろ」

 って、言われても。

「……ぷっ」

 吹き出したら、睨まれた。

「二人で迷子なんて、シャレにもならんだろうが」

「だからって、地図を広げて歩く人なんて初めて見ます」

「馬鹿にしたもんでもないぞ? これで前にも助かったし」


 そんな経験があるんだ。
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