シャッターの向こう側。
「……お前って、カメラ2台とも使ってるのか?」

 不思議そうな言葉に顔を上げた。

「一台は通常仕事に、もう一枚は白黒フィルムですから向きじゃないと思いますよ。でも普段から使ってます」

 東地区の撮影は禁止されたけど、担当の人に〝趣味の写真〟をとってもいいか、ちゃんと許可は取ってある。


 これが〝趣味〟じゃなく〝仕事〟になれれば、とてもうれしいんだけど。

 私なんてまだまだ〝商業カメラマン〟だし……


「ふぅん?」

 宇津木さんは淡々と呟いて、歩きだした。


 さて、お仕事お仕事。

 張り切って両方のカメラを首にかけ、デジカメの画面を覗く。


 人もまばらの遊歩道。

 今日もいい天気で木陰がコンクリートの道にクッキリとした影を落とす。

 宇津木さんは手の届くあたりの広葉樹の葉に指を伸ばし、微かにその木を眺めている。

 風が吹いて、サラサラの髪をなびかせた。


「…………」


 気がつくとデジカメを下ろし、一眼レフを手にしていた。

 出来上がるのは白と黒のコントラスト。

 光と影だけの世界……


 シャッターを切る音に、宇津木さんが振り返る。


「……何をしてるんだ?」

 とても不可解な顔をして、腕を組まれた。

「や。ちょっと脱線してみただけです」

「仕事だと忘れるなよ?」

「もちろん」

 にっこりと笑うと、呆れた様な視線が返ってきた。


 まず向かったのは植物園。

 珍しい南洋植物がたくさん!

 ヤシの木やハイビスカスなんてのは定番中の定番だけど、形の変わったものや色鮮やかなものが多い。


「……暑いな」


 ブツブツ呟いている宇津木さんは無視。

 そりゃ、寒い植物園なんて聞いたことはないですからね!


「黄色や赤だけじゃなく、青いのも色としては欲しいな」

 カメラから視線を外して、後ろの宇津木さんを振り返った。


「青ですか?」

「緑でもいいぞ? お前、花しか撮ってないだろう」

「…………」

 確かに。

「了解です」

 ……と、周りを見回して、ちょっと顔をしかめた。


 あまりきれいな緑がない。


 個人的な意見になりやすそうだけど、こういった乾燥した緑ではなく、もうちょっと瑞々しい緑が欲しい。
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