シャッターの向こう側。
「ここじゃなくてもいいですか?」

「……そうだな。ここの緑はあまりきれいとは言い難い」

 呟きながら先を歩いて行った。

 その後ろを歩きながら、緑によさそうな葉や、綺麗そうな紫の花を撮っていくけど……


「どれもピントこない」

 呟いた瞬間、苦笑が聞こえた。


「お前、赤が好きなわけ?」

「え?」

「見てると、赤い花に集中してたから」

「うーん……」


 考えてみるとそうかもしれない。

 かといって服が赤とか、綺麗な藤色とかは遠慮したいところですが。


「花はたいしてうるさくないです。どっちかと言うと白黒が好きです」

「白黒ねぇ……パンフレット向きじゃないな」

「でしょうね。単に好きな色の話をしただけですから」

 呟く様にしてカメラのファインダーを覗くと、レンズ越しに宇津木さんの手が見えてびっくりした。


「……あの?」

「そっちの一眼レフの方、カラーフィルムは入らないのか?」

「は?」

 言われて、胸元にぶら下がったままの一眼レフを見る。

「いえ。単に白黒が好きなだけで入れてるだけですから……」

「じゃ、そっち使え」

「はぁ?」

「いいから」


 それだけ呟くと、宇津木さんはさっさと歩きだしていた。

 ……よくわからない人だ。

 とりあえずカメラ2台を使って植物園を出ると、宇津木さんは大きく深呼吸した。


「暑かった」

 そう言って首をコキコキ傾ける。


 ……オヤジだな……


「ジャケットくらい脱げばよかったじゃないですか」

 宇津木さんは自分のジャケットを見て苦笑する。

「こっちにも事情があるんだよ」

 意味が不明だよ。

 心の中で呟いて、湖に向かった。


「うわぁ……」

 感嘆の呟きを洩らして、木で作られた柵に向かって走る。
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