シャッターの向こう側。
「どっちにせよ、そういう人は大器晩成だと俺は思うね。まだ自分の理想に技術が追い付かなくて、かなりもがくだろうけど」

 有野さんは笑いながら、チャラチャラとキーホルダーを指で回した。

「感覚で捉える人の理想って、たまに恐ろしい所にあるから」


 自分の理想……


 イメージなら何となく解る。

 現にイメージ通りに写真を撮れた事があまりない。

 どこか…何かが掛け違って、思っていたのとは違うものが出来上がったりする。

 例えば、雲の位置が思った所にこなかったり。

 例えば、光の筋が気に食わない所にあったり。

 時間をかけて、何時間でも何日かけたとしても、いつも違うのが自然だから。


 それから一つ。

 実感した事がある。


「宇津木さんて、相当な口下手ですね?」

「何を今更」

 有野さんは笑いかけ、それから真剣な顔で振り返った。

「……あのさ」

「はい?」

「よくそれで、普通にコンビ組んでたね」

 はぁ?

「宇津木って、一言が必ず多いでしょ」

「宇津木さんは二言三言くらい多いです」

「口下手だって気付かないで、よく組んでたなぁ……」

 それはそれは呆れた顔で見つめられ、ポリポリと頭をかく。

「いや。前にも言ったと思うんですが、確かに腹が立つことも多いですけど悪気があって言ってないのは……」

 解っていたし……

「ふうん?」

「言い方が問題なんですよね。有野さんと同じ事を言ってたんだと思うんですが」

 あの原生林でのやり取り。

 きっと言葉は違うけど、同じ事を言っていたんだと思う。

「私、勘違いしてポカポカ叩いちゃいました」

「え? やり返したの?」

「悔しい事に、防がれました」

 何だって、あんな暗がりで防ぎきるのよね。

 絶対に何か武道とかしてそう。

 いや、してるわ。

 絶対にしてる!

「……神崎さんが面白い考え方をするのがよく解った」


 それはどういう意味ですか!
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