シャッターの向こう側。
 湖面は静かなものかと思っていたけど、風があるせいかさざ波がたっている。

 日光がその波を反射して、キラキラと輝いている。

 ……何か、青春映画か恋愛映画で、恋人たちが散策するようなシーンをよく見るような……

 ちらっと宇津木さんを振り返って震え上がった。


 ……最もあり得ない絵だ。


 よくあるじゃない、女の人が砂浜を走って、恋人が後を追いかけて笑いあう……

 あはは~、うふふ~とか言いながら、バックは晴天の海辺で……


「…………」


 想像して気持ち悪くなってきた。


「なんだその顔は……」

 じろっと睨まれて、妄想の世界から突き落とされた。


「や。何でもないです」

 片手をあげて首を振ると、湖面をまた振り返る。

 そもそも海辺じゃないし、私と宇津木さんは恋人でもないし、だいたい宇津木さんが満面の笑みだなんて……


 想像しただけで怖いし。


 今はこの景色を楽しんじゃおう。

 そう思って、デジカメの方を覗いた。

 覗いたら聞こえてきた音楽。


 あれ……

 思わずスマホを探すと、宇津木さんの方から声が聞こえてきた。


「もしもし」

 ああ。

 私じゃなかったか……


「冴子か。何度も電話かけてくるなよ」

「…………」

 私の視線に気づいてか、宇津木さんは少しだけ眉をあげて、すっと逸らした。


 彼女さんですか。


「今、仕事中だって言ってるだろう」


 そうですね~。

 私の集中力を奪わないでくださいー。


 お耳が妄想の世界に引き込まれちゃいますから。


 ……それにしても、宇津木さんて彼女さんにもそんな淡々とした口調なのかな。

 まぁ、甘い声の宇津木さんなんて、全くもって想像できないけど。


 きもっ……!!


 いかんいかん。

 お仕事お仕事。

 集中集中。


「だから、急に言われても会えない」


 できんわい。
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