シャッターの向こう側。
「とにかく、その、締め切りが来週末なんですよ」

 パッと手を離し、冴子さんは不思議そうな顔をする。

「アルバイトみたいな感覚なら悩まないで適当にやっちゃえばいいじゃない」

「そんなのは嫌です!」

 そんな、適当なモノをお渡しするなんて……そんな半端な事は絶対に出来ない。

 間違っても、やっちゃいけない事だと思うんだ。

 だって荒城さんは、こんな私でも買ってくれて話を持ち掛けてくれた訳で。

 そんな荒城さんに向かって適当なモノを渡しちゃうなんて失礼だ。


 失礼に過ぎる。


「……真面目ねぇ」

 冴子さんの呟きにキッと振り返る。

「真剣なんです!」

「じゃ、本職の方を手を抜いちゃうとか」

「そんな事したら宇津木さんに絞め殺されます!」

「……かもねー。アレもうるさいから」


 両方を上手く……なんて、けっこう難しい。


「じゃ、締め切りが延びないか、交渉してみるとか?」

「うーん。テーマは〝秋〟ですから、それは難しいと……」

「じゃ、隆平に仕事減らしてってお願いするとか?」

「…………」

 なんか、それも嫌。

「あのね。雪ちゃん」

「はい」

「貴女は一人しかいないんだから、任せられる所は任せちゃいなさいな。貴女が出来るところを頑張るのが一番よ?」

 私が、出来るところ……

 そんなのは限られている。

 だって写真を撮る事しか出来ないもの。

「とにかく、どっちかに交渉してみなさいな。言ってみて駄目なら、また考えればいいわよ。手を抜いてるって訳じゃないんだから、解ってはくれると思うわよ」

 冴子さんはウインクつきでそう言って、梨を一つくれた。

「じゃ。私はそろそろ帰らなきゃいけないから」

「あ。ありがとうございます」

 頭を下げると、冴子さんがにこやかに手を振ってくれたのでなんとなく振り返す。

 それから、手にした梨を見つめた。

 どちらも疎かにしたくない。

 でも、どうすればいいだろう?

 迷った末にスマホを手に取った。
< 232 / 387 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop