シャッターの向こう側。
『それで。お前は俺にどうすれと言いたいんだ』

 超不機嫌モードの宇津木さんに、ちょっとだけ冷や汗をかいた。

 ……確かにさぁ~。

 今日は休みだけど、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。

「すみません。人選をまた間違えたみたいです。では」

『おい、コラ。人を叩き起こしておいて、切るつもりじゃないだろうな?』

「今、起きたんですか」

『休みくらい、寝かせろ』

「だって、もうお昼……」

『うるさい。俺は寝てたんだ』


 ああ、そうですか。


『だから、飯くらいおごれ』

 はあ!?

「どうして私がおごる事になるんですか」

『相談だろう? のるから……まずは目を覚まさせろ』

「寝惚けて、人の話を聞いてたんですか」

『聞き流したと思う』

 この……っ!!

『人の都合も考えないで電話してくるからだ』

「普通の人は、もう起きてる時間です~」

『とにかく1時間で行くから。待ち合わせは会社の近くの駅でいいか?』

「え。何故」

『その方が都合がいいんだよ。ばぁか』

 そう言って、一方的に通話が切れた。


 私もキレそうになったけど?

 ま、まぁ。

 相談には乗ってくれるらしいし、なら良いか。

 いいや、良くない。


 でも……

 どっちだ私!

「…………」

 いや……

 とにかく駅に向かわなきゃ。

 遅れたら、後が恐い。





「……で? なんて面してるんだお前は」

 難しい顔の宇津木さんを見上げ、溜め息をついた。

「ツラって言わないで下さい。ツラって」

 せめて顔とか、御尊顔とか、他にも言いようがあるでしょうが。

「じゃ、むさい顔になってるぞ?」

「余計悪いわ!」

「気がついたか」

 ニヤリと笑って、宇津木さんは回りを見回した。

「さすが土曜だと、人も少ないな」

「そうですね~」

「あそこのパスタにしよう」

 宇津木さんは慣れ親しんだ様子で、ちょっとお洒落なカフェ風のレストランに入って行く。


 あらかじめ決めてたんかい、コラ。


 と、思うのは口にしなかった。
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