シャッターの向こう側。

自由契約……もしくはバランス

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 フリー……ねぇ。

 昼休みを利用して、週末に渡された封筒の中身を見ながら頬杖をつく。

 ちなみに今日は、おにぎりと卵焼きセットのお弁当。

 鮭おにぎりがウマー。

「…………」

 じゃなくて。

 確かに基本給与は半分くらいに下がるけど、時間的に余裕が出来るのは魅力的。

 他に不利な点は、会社の仕事を優先しなさいよ的な感じの事が書いてある。

 ……ま、それは当たり前だわね。

 何しろ何もせずに給与をもらうなんて世の中そんなに甘くない。

 でも、それ以外は会社にわざわざ出勤する事もない訳だから、例えばアルバイトをして時給を稼ぐ拘束時間を考えると……

 うん。やっぱりこの契約の方が有利。

 社会保険はつくし、雇用保険や厚生年金は引き継ぐし、退職金積み立ては一旦支払われる。

 ……とすると、月々その分を天引きされたのが手取りになるから。

 今のマンション、学生の頃から住んでる物件だから十分に支払いは出来るね。


「なぁに。宇津木くん……さっそく個人契約書を持ち出したわけ?」

 頭上から声が降って来て、慌てて振り返った先に加納先輩。

「び、びっくりした!」

「ああ、ごめんね? でも……それってそうでしょう?」

 先輩は書類を眺めて首を傾げる。

「あ。はい……よく宇津木さんからだって解りましたね」

「うん。コイツ、得意だもん」

「得意?」

 今は空の宇津木さんのデスクを指差し、先輩は溜め息をつく。

「そうやって育てた後輩をすぐフリーにするから……だから、未だに周りに友達が少ないのよ」

「え? 坂口さんとか、先輩がいるじゃないですか」

 それに、有野さんとも仲が良いよね?

「……坂口くんは微妙かなぁ?」

「……ですか?」

 一緒にキャンプ行くような仲なんだと思うんだけど。

「同じ部内でもないし……それに、宇津木くんは私にはかなり遠慮してるし」

 え?

「あの宇津木さんが、先輩に遠慮してるんですか?」


 どうやって!!

 どうやったら、あの宇津木さんに遠慮させられるんだ!?

「なんか昔、同期で飲みに行くことがあってね」

「はい」

「私、宇津木くんを怒って道路に突き飛ばしたのよね」

「…………」


 私には真似出来ません。
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