シャッターの向こう側。
「あれ。先輩も帰るんですか?」

「当たり前よ! 宇津木くんがアイツを呼び出したんだから」

「アイツ?」

「今野兄よ! 放っておいたら、宇津木くんに何を吹き込むか……」

「普段、吹き込まれたらヤバイような事をしてるから慌てるんです」

 横から聞こえて来た声に、加納先輩の足が急ブレーキをかけた。

 ちょうど今、通り過ぎた道のガードレール。

 そこに黒のレザージャケットを着た男の人が腰をかけている。


「出たわね! 諸悪の根源!」

「どっちがですか。だいたいワザワザ迎えに来た人間に言う言葉ですか、それ」

 今野兄はサングラスを外し、ニッコリと私に向かって微笑んでくれた。

「神崎さんは相変わらず元気そうだね」

 ……相変わらずって言われてもな。

 困った事に、会社にいる今野兄さんとは話した事もなければ、視界にいれた事もなかったり。

 あ。

 でも、よく見るとグラフィックスの今野さんとよく似てるかな?

 初めましてって言うのも変だし、お久しぶりって言うのもしっくりこない。

 うーん。

 どうしようか?


 悩んでいたら、頭をぶっ叩かれた。

「痛い!」

「こんばんはで良いだろうが」

 間違いなく宇津木さん。

 手にはクリップボードを持って、背後に立っていた。

「痛いじゃないですか!」

「そんなに強く叩いてないぞ?」

「叩く事がもう凄く問題だと思うんですけど!」

「そうか?」

「そうです!」

「ま。とりあえず皆さん、車に乗ってもらえますかね? ここ、あまり長時間停められないし」

 アッサリ今野兄が言って、道路に停めてあった車の運転席に座った。


 ……清々しいまでに、サラっと流してくれちゃったみたい。


「面白い人ぉ……」

「今野もピヨには言われたくないだろう」

「それはどういう意味……」

「だから、そこのお二方。早く乗ってくださいって」

 車内から今野兄に睨まれて、思わず宇津木さんと目を合わせた。


 この人もきっと、間違いなく我が道を突き通す人だ……

 おとなしく後部座席に宇津木さんと乗り込んだ。
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