シャッターの向こう側。
「じゃ。晩飯は宇津木さんの奢りでいいですよね?」

 キーを回しながら、今野兄はそう言ってシートベルトをつける。

「何故、俺が……」

「この中で一番高給取りでしょうし。あ。後部もシートベルト付けて下さいね。減点されたくないので」

 ちらっとミラー越しに目があって、慌ててシートベルトを付けた。

「じゃ。和食にしますから」

「俺はイタリアンがいい」

「先週までベニスにいたんで、勘弁して下さい」

「じゃ、中華」

「はいはい。我が儘ですねぇ」

 今野兄は肩を竦めてアクセルを踏んだ。


「……………」


 なんて言うか。

 宇津木さんと今野兄って、妙なやり取りをする。


 お、面白いかも……?

 微かにヘラッと笑ったら、

「い、いひゃいれふ!」

 何故か頬っぺたをつままれて、宇津木さんを睨む。

「今、笑っただろ」

「わりゃっれまひぇん!」

 笑ったけど。

「あ~……何言ってるか解らんな」

「じゃ~離せ!」

 無理矢理に腕をよけさせて、お互い睨み合った。

「……仲がいいんですねぇ」

 ポツリと呟かれた今野兄の言葉に、キッと振り返って叫ぶ。

「それはない!」

 宇津木さんとハモって、また睨み合い。

「それはこっちの台詞だ」

「いいえ! 私でしょう」

「どっちでもいいですから、車内は静かにして下さいね?」

 今野兄の言葉に、助手席に座って澄ましていた加納先輩が小さく吹き出した。

「確かに面白いやり取りだわ……」

「僕は全く面白くありませんし、運転に集中させてください。ただでさえ日本の道は久しぶりなのに」

「事故らないでね~?」

「誰かと一緒にしないで下さい」

 その言葉に、加納先輩がムッとして押し黙った。

 ……事故でも起こした事があるんだろうか?


 それにしても。


「そっちの方が仲良さそうですね」

「冗談じゃないわよっ!」

 ツッコミ早っ!!

 今野兄が素知らぬふりでハンドルを切りながら苦笑し、加納先輩はもの凄い形相で振り返っている。


 あれ……

 今の地雷?
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