シャッターの向こう側。
「神崎さんて、可愛いね」

 今野兄が呟いて、片手で加納先輩の頭を座席に戻した。

「宇津木さん」

「なんだ?」

「僕は、彼女を世に放つのはいささか危ないんじゃないかと思います」

 ……それはどういう意味ですか。

「思ったまま口に出るようですし、好きと嫌いがハッキリ出ますよね? それじゃ難しいんじゃ?」

 宇津木さんは無言で腕を組み、シートに深く腰を沈めて溜め息をつく。


「…………」


 宇津木さん。

 ……なんか答えようよ?

 ちょっとだけ気詰まりなんですが……

 車内の暗がりの中、道路の街灯がどんどん通り過ぎていく。

 しばらくして、逆光になった宇津木さんの影が微かに動いた。


 ……なんだろう?


 視線を感じて少し首を傾げる。


「大丈夫じゃないか? こう見えて、お前相手にはネコ被ってるらしい」


 ……へ?


「俺が相手なら〝どういう意味〟だとか、多分言ってくる」

「何がですか」

 睨んだら、宇津木さんは少しだけ肩を揺らした。

「ほらな?」

 何故か自信ありげな発言に、運転席から吹き出す様な気配がする。

「まぁ……問題は、カメラを持たせると気まま過ぎるところか。たまに周りを見ないのが怖い」


 ……うっ


「そうね~。集中しだすと、本気で階段落ちしそうよね」

 加納先輩がクスクスと笑う。

「後は気分が乗ると、訳が解らん鼻歌を歌うところか」

「北海道の味覚市の広告で、ソーラン節を歌ってたのはびっくりしたわね」

「よくこける」

「壁に激突してるし」

「無謀だ」

「やんちゃだし」

「当の本人を目の前にして、言いたい放題ですね」

 思わず呟くと、

「反論の余地無し」

 そう言って、宇津木さんからデコピンをくらった。

「う~……」

 痛いって言うのよ~。

「それにピヨはすでに世には出てるぞ? 一応、荒城 雄一郎がメインだが」


 言った瞬間、甲高いブレーキ音。


「きゃあ!」

 加納先輩の叫び声が混じって、

「今のはないだろう。今野」

 私は冷静な宇津木さんに肩を掴まれ、前方シートにぶつかるのは避けられた。
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