シャッターの向こう側。
「荒城。荒城って、あの荒城雄一郎さんですか? 一緒に仕事してる……とか?」

 今野兄のどこかしら呆然とした呟きに瞬きする。

「はい。カメラ雑誌の方で、四季の移り変わりを……夏から」

 答えた瞬間、運転席の今野兄がガッと振り返った。

「じゃ、なんでこんな会社でフォトグラファーなんてしてるの!?」


 ……はい?


「……こんな会社って、酷くない?」

 加納先輩の低い声に、今野兄はちらっと彼女を見て溜め息をつく。

「神崎さん。夏から……って事は、今も続けてるの?」

「はい。今回は秋です。なかなかイメージが湧かないんですが」

 それが何か?

 今野兄は前方を見て、また溜め息。

「……宇津木さんが?」

「夏のミュージックフェスの仕事は振ったが?」

 宇津木さんが笑いを含んだ声音で答え、私の肩から手を離す。

「……後は、成り行きに任せた」

 二人の会話が全然解んないけど?

「神崎さん」

「はい?」

「それって凄いよ」

 ……何が?

「荒城雄一郎って言ったらネームバリューも凄いけど、すぐ首を切る事でも有名だから」

「首?」

 今野兄は車を再度出しながら、ゆっくり頷く。

「気に入らない同業者とは組まないし、組んでも気に入らなきゃ即解雇。そういう事が出来る人でもある」

「何だかノリのいいおじ様でしたが」

 まだ電話でしか話したことはないけど、確かまだ42歳だったよね。

 前回もそうだったけど、今回の秋の企画も直接電話が来て、

『そういう訳だから、秋もよろしく』

 なんて一言で電話は切れた。

「だから、早く秋を撮らなきゃなんですけど~」

 ブツブツ言っていたら、今野兄が大きな溜め息をついた。

「……宇津木さん」

「なんだ?」

「この恐ろしく無茶苦茶な小娘はなんですか?」

「神崎 修也のま……」


 バシンと小気味良い音がした。

「いてっ」

 あら~……思いきり頭を叩けちゃった。

「イキナリ何をするんだお前は」

「宇津木さんこそ、イキナリ何を言うんですか」

「事実だろうが」

「人に教えるつもりは毛頭ないんです。だから、言わないで下さい」
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