シャッターの向こう側。
 それを教えちゃうと〝神崎 雪〟としてではなく〝写真家・神崎 修也の孫〟としか見られなくなりそうで……

 それは嫌だ。


「……馬鹿だな」


 あっさり返されて、倒れそうになった。

「ここまで来たのはお前の実力だろうが」

「…………」

「世の中そんなに甘くない。親や親類が影響を及ぼせるのは閉鎖的な狭い世界だけの話で、アートの世界はもっとシビアだ」

 宇津木さんは淡々と呟き、小さく首を傾げるのが見えた。

「実際に、俺の祖父はうちの会社の会長だが、お前は俺が祖父の威光を笠に着て賞をとってるとでも思ってる訳か?」

「そんなはずがないじゃないですか」

 宇津木さんは、大手とは言え一介の広告代理店の一社員……

 それくらいのコネで、海外のコンクールで賞なんかは無理だと思う。


「だいたい……撮り方も捉らえ方も違うくせに、そんな事を心配するな」

「………?」


 ……撮り方や捉らえ方。


 確かに、お祖父ちゃんと私は違う。

 物事の全体像を考慮して捉らえる……と言う撮り方は、まだ私には無理。

 それに、お祖父ちゃんは何時間でもじっくりと時間をかける。

 私は気分次第。



 だけど。


「何で宇津木さんが知ってるんですか?」

「さぁな?」

 宇津木さんは窓の方を向いて、黙り込んだ。

 まぁ……宇津木さんの事だから、お祖父ちゃんの写真も見てるだろうし。


 うーん。


「着きましたよ。腹減ったんで、早く飯にしましょう」

 今野兄の言葉に窓の外を見たら、厳かながらネオンがきらびやか……過ぎる看板が目に入った。


「鮃珍樓かよ……」

 聞いた事はあるな~。

 確か、ランチ3000円する中華料理屋さんだよね~?

「……って、高級中華料理屋さん!」


 叫んだ瞬間、頭を叩かれた。


「ちょっとだけ痛かったです」

「手加減したからな」

 しれっとした宇津木さんを見上げる。

「手加減とか、それ以前にですね……」

「俺、お腹が空いたんですが?」

 運転席から冷ややかな声が聞こえて、宇津木さんは肩を竦めた。

「ほれ。ピヨ」

 シートベルトを外されて、宇津木さんに車から追い払われる。
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