シャッターの向こう側。
「なんなんですか……あの人」

 ぶつぶつ言うと、加納先輩が肩を叩いてきた。

「生意気でしょう? 今野くん」

「……宇津木さんの事だったんですが」

「宇津木くんはあのまんまよ」


 それもどうかと思う。


「でも……今野くんを呼び出したのは神崎ちゃんの為だと思うわよ?」


 ……へ?


 瞬きして加納先輩を見ると、先輩は苦笑してお店を指差した。

「解りにくい男だって言ったでしょ? ああ見えて後輩思い。それをどう取るかは本人次第だけど……」


 よく解らない。


「私の為って……私と今野兄とどう繋がると?」

「フリー契約に迷ってるんじゃないの?」


 うん。

 正直、その通り。

 だって、半分は会社の一員としていられるけど。

 後の半分は、独立するようなモノで……

 私にはまだ早いんじゃないかな……なんて思ったり。


「神崎ちゃんが今、何を考えてるか解らないけど。宇津木くんがあの契約書を持って来たって事は、宇津木くんなりの卒業証書だと思うわよ?」


 卒業証書?


「ただ──……」

 加納先輩は首を傾げながら、難しい顔をした。

「何ですか?」

「んー……。私、ハッキリしない事は言わないことにしてるの」

 それだけ言って歩き出す先輩を、慌てて追い掛ける。

「先輩! 言いかけて止めないで下さい」

「ん……でもねぇ」

「でもじゃなくて!」

 先輩は肩を竦めて、指を振った。

「単なる憶測よ?」

「はい」

 お店のドアの手前で立ち止まり、加納先輩は静かに振り返った。

「宇津木くん。神崎ちゃんを手放す気がないんじゃないかしら?」


 ……は?


「宇津木くんが育てた後輩で、確かにフォトグラファーなのは今野くんだけなんだけれど。そこに繋ぎを作るなんて……ちょっと、らしくないかな」


 いや。

 あまりよく解らないけど。

「ま。単なる気のせいかもしれないけれどね」

 ニッコリと微笑みかけてくれて、また軽く肩を叩かれた。

「そんな難しい顔しないで。美味しいもの食べちゃいましょ」

 そう言って、お店のドアを開けた。
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