シャッターの向こう側。
 お店の入口で待っていてくれた二人と合流して、素敵なチャイナドレスの店員さんに奥の個室を案内される。

 中央に丸いターンテーブルつきのテーブル。

 赤い支柱に格子窓。

 全然読めない漢字の書かれた額縁。

 気分は〝プチ中国空間〟なんだけど……

「何にする~?」

 加納先輩はそう言ってメニューを見せてくれたけど、メニューなんかは頭に入ってこない。

「あ。お任せします」

「じゃ、Bコースだな」

 あっさり宇津木さんが決めてメニューを閉じた。


 ハッキリ言って、さっきの加納先輩の言葉が頭の中でグルグルしてる。

 神崎ちゃんを手放す気がないんじゃないかしら?……って。

 もし、私がフリー契約にしたら、やっぱり何かは変わる訳だよね。

 今まで通りにはならないと思うし。

 簡単に相談できないだろうし……

 何かをするにも、自分で判断して行かなきゃならないんだよね。



 なんて考えたら、余計に恐い。

「…………」

 ……やだ。

 私って気がつけば、とっても宇津木さんに頼って来てるんだ。

 26歳にもなるのに、大切な事の根本的な部分を宇津木さんに頼って。

 でも私はフォトグラファーで、宇津木さんはディレクターで……

 会社のフォトグラファーとしてはそれが当たり前なんだけど。


 でも、写真家としては、当たり前じゃないよね。

 写真を撮るのも、現像するのも、それを選ぶのも自分。

 大概の事は一人でやるのが普通。

 今までだって、そうして来たじゃない。

 いつどこで、どうして変わちゃったんだろう?

 プロになるなら、フリー契約は一番いいことだと思う。

 時間を有効に使えるし、自分の感性で生きていけるチャンスでしょう?

 全部が全部、放り出される訳でもない。


 でも、もの凄く孤独だ。

 出来る事なら、ずっとこのままでいたい気がする。


 だけど……


 それじゃきっとダメなんだ。
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